いまやCO2削減、省エネルギーは世界的な課題。私たちの家づくりにおいても、例外ではありません。
「でも、そんなに難しく考えることはありません」というのは、建築家の竹内 昌義さん。
「断熱性と気密性をきちんと持たせて、暖かい家にすれば健康的で快適な家になる。それだけのことです」と笑います。
そんな竹内さんに「いま必要な断熱リフォーム」についてうかがいました。
プロフィール
建築家
竹内 昌義(たけうち まさよし)
断熱リフォームが必要な理由、
実は「健康的に暮らすため」
これまで私たちが住んできた家のままではいけないの? なぜいま高気密・高断熱のエコロジーな住まいが必要なの? 急速に進む住宅の高性能化の流れに戸惑っている方もいるかもしれません。環境問題、エネルギー問題のみならず、竹内さんは「健康に暮らしたい人は、断熱リフォームしたほうがいいですよ」と説きます。
日本の家は寒い! 冬の朝でも室温18℃以上の住まいがおすすめ
いま日本では国を挙げて、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みを進めています。カーボンニュートラルとは、地球規模の課題である気候変動の解決に向け、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。日本の住宅分野でも、家庭で消費するエネルギーを太陽光発電などでまかなえる量に抑えるゼロエネルギーハウス(ZEH/ゼッチ)を目標に、建物の高気密・高断熱化が進められています。
「そもそも、これまでの日本の家は、他の国と比べても性能が低すぎました。夏は室内で熱中症になってしまうし、冬は外気と同じくらいの温度まで冷え込んでしまう。そんな家に住み続けていたら、健康を損ないかねませんね」と竹内さん。新築の戸建住宅では現行の建築物エネルギー消費性能基準(以下、省エネ基準)に適合するものは約8割ありますが(図2参照)、既存の住宅となると、現行基準を満たすのはわずか1割。全体の3割は無断熱の状態です(図1参照)。
実際に2018年、WHO(世界保健機関)では住宅と健康に関するガイドラインを発表し、冬季の室温は18℃以上であること、子どもや高齢者についてはこれ以上に暖かい環境であるべきということを勧告しています。多様な世帯が安心・健康に暮らすことができる住環境の促進を目的とした国土交通省「スマートウェルネス住宅等推進事業」の調査(以下、SWH調査)では、断熱改修することによって起床時の最高血圧が約3.1mmHg低下するという効果が明らかになっています。
「よく日本の家づくりについて、鎌倉時代の歌人・随筆家、吉田兼好の"家は夏をもって旨とすべし"という一説が引き合いに出されますが、あれは衛生面が優れず、夏場の湿気による腐朽や菌の繁殖、食中毒が懸念されたころの話。もちろん夏の通風は大事ですけども、現代はむしろ、冬に脳や心臓、血管の重篤な疾患が増えるのが問題。気温の低下で身体にかかる負担が大きくなるからです」(以下、表記のない発言はすべて竹内さん)
暖かいリビングから気温の低い脱衣所に移動して服を脱ぎ、寒い浴室で熱い湯船に浸かる、といった温度の急な変化は、「ヒートショック」と呼ばれる血圧の急変を招き、意識をなくして浴槽でおぼれてしまうといった事態を引き起こす危険性も知られるようになりました。
「一定水準の断熱・気密性を持つ住宅であれば、冬の朝でも18℃未満にならないよう保つことは容易です。建物の室内全体が均一な温熱環境になるので、温度差による健康への負担は解消されます。その他、様々な公的な調査の結果、高性能住宅に住んでいる人には、アレルギーや冷え性、PMS(月経前症候群)、糖尿病、関節症などが少ない、ということもわかりました。寒さは万病のもとですね。健康で快適な暮らしのためにも、断熱リフォームをおすすめします」
竹内さんが解説!
高気密・高断熱の住まいの
ウソ、ホント
高気密・高断熱の住まいについて、メリットはわかるけれど、プランニング前にもうちょっと知りたい...。そんな方は少なくないのでは? そこで、時折耳にするような先入観や誤解について、竹内さんに解説してもらいました。
「日本は温暖だから高気密・高断熱は不要?」
「みなさんも試しに寝室に温度計を置いて朝の温度を確認してみてください。思ったより低くて驚くと思います。確かに日本は温暖な国ですが、性能が低い住宅では、冬には九州であっても室内が寒い。寒冷地でなくても断熱性能は必要なのです」
全国の1月の朝の寝室の気温を都道府県別に平均値をとって比較した調査があります(図3参照)。起床時の寝室の気温は全国平均で12.4℃でしたが、気温の低い順から、1位長野県(8.8℃)、2位大分県(9.0℃)、3位宮崎県(9.4℃)、4位佐賀県(9.7℃)、5位滋賀県(9.9℃)という結果に。温暖であるはずの九州の3県が全国的に寒く、その一方で、暖かい順では、沖縄県とともに北海道が上位に。
「断熱リフォームは高額?」
これまで竹内さんが指摘してきたように、もともと性能が低い家の場合、断熱性、気密性などの性能を根本から向上させるリフォームは高額になるのでは...。
「確かに家全体をしっかりやろうとすると、そうなるかもしれません。でも、まずは玄関や窓といった開口部を見直す、在来工法の浴室をシステムバスに替える、給湯器をエコキュートに替える、それだけでも効果を実感できると思います」と竹内さん。
冬の暖房時、家から逃げる熱の58%は開口部からのもの。また夏の日中、家に入ってくる熱の73%は開口部からのものです。窓を樹脂サッシ+ペアガラスに交換したり、樹脂製の内窓を取り付けたり、開口部の断熱性を高めることで、冬冷えにくく、夏暑くなりにくい家になります。近年は壁を壊さずに住まいながら短期間で取り付け可能な窓も開発され、窓のリフォーム工事も以前より容易にできるようになりました。また、システムバスは在来工法の浴室よりも断熱性が高いので、バスルームの温度を保ちやすくなり、ヒートショックのリスクを低減する効果も期待できます。
空気に含まれる熱を利用してお湯をつくるヒートポンプ式の給湯器、エコキュートは省エネ効率が高く、ランニングコストを抑えることが可能です。「できれば開口部と設備の見直しに加え、屋根と床下にも断熱施工をするといいでしょう。その程度であれば、工事費200~300万円におさまるリフォームも難しくないと思います」
住宅の性能を高めるためにその分の費用はかかりますが、冷暖房が最低限で済むなど省エネになるため、毎月の光熱費削減につながります。結露が生じにくくなるので柱や梁などの構造も腐朽しにくく、耐久性が持続するというメリットも。
「1年を通じて快適な室温が保たれるので、心地よさを体感した次の代も住み継ごうという気持ちになります。住宅が長期にわたって使い続けられるなら、十分、投資する意味はあるはずです」
断熱リフォームを実施する際、そのついでに柱や梁を補強するなどの耐震リフォームを施すのもひとつの選択肢。工事費用は多少増しますが、耐久性や安全性を効率よく高め、家の寿命を延ばすことで、リフォームのコストパフォーマンスを引き上げることにつながります。
「省エネは我慢が大事?」
日本では、省エネというと照明をこまめに消したり、エアコンの設定温度を控えめにしたりと、「我慢をする」「努力する」というイメージがあります。
「そういうことは、大した省エネにはなりません(笑)。家の断熱性を高めることが、もっとも効果的な省エネなんです。住宅の断熱性を上げれば、ごく普通に生活していても十分に環境に貢献することになるんですよ」
ちなみに以前は、電力消費のピークはエアコンの冷房が集中する夏の日中でした。「いまは太陽光発電が普及して、エアコンの性能も向上しているので、夏の電力消費はだいぶカバーされています。ですから、節電のためにエアコンを我慢しなくてもいい時代になりました。逆にいまの電力消費のピークは真冬の20時ごろです。各家庭で暖房するので、そこで電力の供給量を超えるおそれがあります。万一、停電すると寒冷地では命にかかわるので、そういう意味でも、断熱リフォームによる省エネは重要です」
「家の気密性を上げると息苦しくなる?」
壁の中には、施工した断熱材および室内に湿気が侵入するのを防ぎ、かつ、外部に熱が逃げるのを止める「気密層」という部分があります。隙間をなくして気密性を上げる、というと「息苦しくなる」と誤解する人もいますが、むしろ逆。床下や壁内の汚れた空気が隙間風として入って来ないので、給気口などを通じて給気と排気が効率よく行われ、新鮮な空気環境の中で生活できるようになります。
「高気密・高断熱であれば、部屋を細かく仕切らなくても寒くないので、広々としたオープンな間取りも快適になり、吹抜けを設けても外部に熱が逃げにくくなります。また、高断熱仕様の玄関ドアを採用すれば、玄関ホール付近に応接スペースをつくることも可能に。気密性を高めることで家全体が無駄なく、広く活用できるようになりますよ」と竹内さん。
施工する会社を選ぶときには
「気密検査」の有無の確認を
「気密検査」は断熱リフォームの重要なポイントのひとつ。この検査に関する知識や経験、実施の可否も、施工を依頼する会社選びの参考になります。
わかりやすい説明も
チェックポイントに
断熱・気密の知識をきちんと理解している工務店、リフォーム会社を選ぶにはどうしたらいいのでしょうか。「"気密検査をしていますか"と聞いてみてください」と竹内さん。
気密検査とは、大きな送風機を使って建物内の空気を外に追い出していき、建物の室内側の気圧を低くしたうえで、外との気圧差を計測し、建物にどのくらいの隙間があるかを調べるというもの。検査で得られる実測値を「相当隙間面積」といい、「C値」という数値で表されます。数値が小さいほど、気密性が高いことを意味します。
こうしたことをわかりやすく説明してもらえるか、ということもチェックしてみましょう。
「住宅の性能を確保する上で、①気密検査の重要性を知っているということ、②検査を実施しても問題ない数値が出せる施工精度があること。気密検査を実施している会社は、この2点を満たしているはず。住宅の性能については、最低限の理解があると思っていいでしょう」
断熱リフォームはまだ正しいノウハウが浸透し切っていないため、会社選びがとても重要だそう。今回の竹内さんのお話の内容を担当者に投げかけて、返ってきた意見を参考にしてもいいかもしれません。住まい手自身も情報を集めて、積極的にリフォームに参加する姿勢を持つとよさそうです。
TDYのコラボレーションショールームでは、TOTOの水まわり、DAIKENの内装建材、YKK APの窓・玄関ドアなど、断熱リフォームの際に活用できる商品をご覧いただけます。
またTOTO、DAIKEN、YKK APがご提案している「十人十家(じゅうにんといえ)」でも、それらの商品を取り入れたさまざまなリフォーム空間をご覧いただけますので、ぜひご活用ください。
断熱リフォームに
おすすめの商品のご紹介
巷での情報が増えつつある断熱リフォーム。
下記の商品をチェックしておくと、最新のプランのヒントにもなるはず。
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TOTO 戸建住宅向けシステムバスルーム
シンラリラックスを追求した新機能を搭載しています。日常を快適にするTOTOのこだわりをバスルームに実現しました。
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DAIKEN 24時間換気システム
エアスマート居室換気タイプ
DKファン熱交換器が冷暖房の熱ロスを大幅に削減し、省エネに貢献する換気扇です。また、熱交換器のもつ遮音機能で、音の侵入や音漏れを低減。寝室や勉強部屋にも最適です。
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DAIKEN 換気排熱ファン
夏場の天井付近にこもる熱気を排出。小屋裏に風の流れをつくるので、天井からの輻射熱を低減させます。
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YKK AP APWシリーズ
YKK APが、これからの窓を追求した高品質のシリーズです。樹脂窓をはじめアルミと樹脂を使った複合窓など充実したラインアップを揃えました。10年保証により長く安心してお使いいただけます。
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YKK AP マドリモ 断熱窓
戸建用壁工事不要のカバー工法で、浴室の窓をスピード交換。暑さ・寒さの原因となっていた古い窓を、新築にも使われている最新の窓に替えて、より快適で健康、ローエネな暮らしに変えることができます。
※この記事内容は、2022年4月26日時点での情報です。ご了承ください。
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