人生100年時代。元気なお年寄りが増えています。
つい「自分の親も、いつまでも元気」と考えたくなりますが、
より長く元気でいてもらうためにも、早めに住環境を見直しておくことが大切。
高齢者が転倒などの事故に見舞われるのは、実は住み慣れた家の中であることが多いのです。
国土交通省は、2019年3月に「高齢期の健康で快適な暮らしのためのガイドライン」を公表。
検討過程から携わった、高齢者住宅協会 企画部長の永野 浩子さんに解説していただきました。
プロフィール
一般社団法人 高齢者住宅協会 企画部長
永野 浩子(ながの
ひろこ)さん
あなたの家は、大丈夫?
高齢者の事故の約8割は住宅内で起きている
元気とやる気に満ちた"団塊の世代"も、今や70代半ばに差し掛かっています。高齢者のイメージも変化し、定年後も仕事を続ける人、インターネットなどのデジタルツールに慣れた人が増えていると言われます。とはいえ、身体は若い頃と同じとはいきません。そこで今、高齢者の暮らしで重視されているのは、なるべく要介護に至るのを防ぎ、健康寿命を伸ばすこと。そのための大事なポイントが、住まいのあり方です。
同居・近居はフレイル予防に効果あり。身体面では事故防止を
永野 浩子さんは「家族と同居または近居する高齢者は、食事を共にしたり会話を交わすことで、社会とのつながりを保ちやすい。これはフレイル(加齢による虚弱化)予防にとって、大きなアドバンテージです」と語ります。社会参加の機会や世代間の交流が多いほど、抑うつ状態に陥りにくく、認知機能の低下が起こりにくいという研究結果もあるそうです。
一方で、身体機能低下の引き金になりやすいのが、転倒やヒートショックなどの事故。国民生活センターの調査によれば、高齢者の事故の実に77.1%が住宅で起きています(図1)。中でも、意外なことに階段より部屋(居室)のほうが多く、45%に上ります。「例えばホットカーペットの端や電気コードにつまずくなど、家の中がきちんと片付いていないことも、転倒事故の原因につながっています」。(以下、発言はすべて永野さん)
高齢者の住む家は、建築時期が古いことが多く、2,000年以降に建てられた家に比べてバリアフリー化の状況や断熱性能に劣る傾向があります。このことは、転倒事故やヒートショックの原因になりかねません。あなたの住まい、またご実家はいかがでしょうか?
「あなたと住まいの健康度」相性診断で現状を見直す
高齢者住宅協会では、今の住まいの状態で今後も安全・快適に住み続けられるかどうかを判断するための「あなたと住まいの健康度」相性診断(図2)を用意しています。
チェック項目は大きく「1.温熱環境」「2.外出のしやすさ」「3.トイレ・浴室」「4.生活空間」の4つ。特に「1.温熱環境」については、年齢を問わず、すぐにでも改善したほうがよい項目。「2」以下は、これからさらに年を重ねることを見越して、早めに検討しておいたほうがよい項目です。自分や家族の状況と重ね合わせながらチェックしてみましょう。
「あなたと住まいの健康度」相性診断
現在の住まいが、ご家族にとって安全・快適な環境になっているかどうか、将来を想定して住まいとの相性を確認してみましょう。
- 冬場、長い時間を過ごす部屋の足元が寒いと感じる
- 冬場、入浴時、脱衣室や浴室で寒さを感じる
- 冬場、廊下に出た途端にヒヤッとする
- 玄関で靴を履くときに、何かにつかまることが多くなるかも
- 玄関から外に出るときに、危ないと思うかも
- 歩く速度が落ちてきたと感じるかも
- 夜間トイレに行く回数が増えるかも
- 寝室からトイレに行くまでの距離が遠いと感じそう
- トイレやお風呂で立ち上がる時、何かにつかまることが多くなるかも
- 外に出ることが減って家の中で過ごす時間が増えるかも
- 室内でつまずくことが増えるかも
- 雨戸の開閉や洗濯物を干すのが負担に思うかも
お互い元気なうちにリフォームして
安全・快適に人生を楽しもう
愛着のある住み慣れた家であれば「今は何の問題もないのだから変えたくない」と思うのは自然な気持ち。けれども永野さんは「まだ元気なうちに決断することが重要です」と語ります。効果的なリフォームを実現するために必要な「3つの能力」とは?
元気なうちにリフォームして、快適な時間をより長く
「年齢を重ねると、残念ながら判断力も衰えていきます」と永野さん。「何より、リフォームに備えて家財道具を動かしたり片付けたりするには体力が必要ですよね。そして、せっかく高機能な最新設備を導入しても、うまく使いこなせなかったらもったいないでしょう」。
リフォームには、判断する力、片付ける力、新しいことを受け入れる力、の3つの力が必要です。家族みんなが元気なうちは、手すりなんてまだ早いと思われがち。「最近は福祉用具も進歩しているので、早くからあちこちに手すりを取り付けたりしなくても大丈夫」。
ただ、リフォームを機に将来、要介護となった時に、本人と家族にとって負担が少なくなるように備えておくことは可能です。「いざという時に、高齢者ご本人がラクに過ごせることはもちろんですが、同居のご家族が介護者となることを想定し、家族が介護しやすい家にしておくことも、家族ならではの思いやり。早めに備えておくことは、将来のご家族へのギフトともいえるのではないでしょうか」。
次に、そのポイントを見ていきましょう。
家族の健康を保ち、将来も暮らしやすい。
リフォームで考えるべき8つのポイント
国土交通省の「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」は、改修に当たって考えるべき8つの「配慮項目」を挙げ、うち4項目を特に重要な項目としています(図3)。ただ、項目同士は互いに関連しているので、幅広く検討して効果的な計画を立てられれば理想的です。
8つの配慮項目
(上4つが特に重要な項目)
重点項目❶
「温熱環境」ヒートショックや熱中症を防ぐ
重点項目の第一に挙げられるのが「温熱環境」です。50代、60代からリスクがあるため、「高齢者住宅協会が主催するセミナーなどでも、常に一番重要と訴えているのが温熱環境です」。
住宅の断熱性が低いと、冷暖房の効率が落ちるのはもちろん、家の中の温度差が大きくなります。冬の最中、暖かいリビングから廊下に出るのが億劫になることはありませんか?家の中の温度差は、ヒートショックの原因となるだけではなく、住む人の活動量を低下させてしまうため、意欲の低下、筋力低下に伴うフレイルにつながります。冬だけではなく、夏の暑さも年々厳しくなっており、室内で熱中症になると命の危険に直結します。
リフォームでは、熱の出入り口となる開口部の断熱性を高めることは比較的手軽にできることです。可能であれば、床や天井の断熱改修も検討しましょう。また、冷暖房設備を適切に配置すること、居室と廊下やトイレ・浴室との温度差を抑えること、家全体の温度をなるべく均一に保てるような間取りの工夫がポイントになります。
重点項目❷
「外出のしやすさ」社会とのかかわりを保つ
前述のとおり、リタイア後の高齢者にとって、社会とのかかわりを保ち続けることは、フレイルや認知症の予防に効果的です。外出が億劫にならず、また外から友人、知人に訪ねて来てもらいやすい住まいにすることも大事。
玄関から道路までの段差解消なども検討項目ですが「親子同居なら、いきなりスロープにしなくてもいいのではないでしょうか」と永野さん。
玄関から道路までに高低差があるなら、踏面が広く勾配の緩い階段「ワイドステップ」とするのもお薦めだそう。「いざ車いす必要になったときも、福祉用具の携帯用スロープを渡すことで対応できます」。
将来昇降機を設置するための外部コンセントをつけておくと万全です。
下の図は、重点項目1と重点項目2を踏まえた改修例。開口部に内窓を付けたり高断熱の窓に交換したりして断熱性を高めています。暖冷房設備をバランス良く配置し、廊下やトイレにも届くようにしています。
重点項目❸
「トイレ・浴室」自立した生活を支える
自分でトイレに行って排泄できるか否かは、人間の尊厳にもかかわります。特に高齢になると、深夜にトイレに立つ回数も増えるもの。高齢者の寝室とトイレとの間を行き来しやすくすること、手すりの設置などバリアフリー環境の整備が検討事項になるでしょう。
「元気なうちはピンとこないかもしれませんが、廊下からトイレに入る向きも重要です」と永野さんは指摘します。「一般的に、便器に向かって正面から入るトイレが多いと思いますが、そうすると身体を回転して座ることになりますね。これが本人と介助者の負担を高めます。便器に対して横から入るように工夫することで、本人と介助者の負担が減らせます。加えて、出入口を引き戸にすれば、車いすも使いやすくなります」。
浴室では、浴槽のまたぎやすさ、湯船に出入りする際の手すりが特に大事だそう。手すりがあると、お孫さんが小さい時にも安心です。そして「もっと大事なのは、ここでもやはり、温熱環境です」と永野さん。浴室は足元がヒヤッとしない床材に、脱衣所は濡れても滑りにくい床材としておくことが大切です。浴室内や脱衣所に適切な暖房を設置して、浴室内や脱衣所がきちんと暖まるようにしておくこと、浴室と脱衣所、脱衣所と廊下の温度差を抑えることで、ヒートショックを防ぎましょう。
重点項目❹
「日常生活空間」コンパクトに動きやすく
年を重ねると、階段の上り下りは億劫になりがちですし、転倒の原因にもなりかねません。「親子同居の場合は、1階を親世帯、2階以上を子世帯などと上下階で住み分けることも多いでしょう。高齢者だけで住むなら、"2階はもう使わない"と割り切ることも大事です」。例えば寝室が2階だったとしたら、早めに1階に移してしまうのも手。
古い家の間取りは細かく仕切られていることが多いもの。不要な間仕切り壁は撤去して、すっきり広い空間にすれば、より明るく、動線もスムーズになります。「寝室とトイレを近づけると、夜中にトイレへ行くのもラクになります。将来、福祉用具の手すりを設置することを見越して天井を補強しておくと万全です。ただし、空間を広げるときには、併せて断熱性を高めることも忘れないでくださいね」。
重点項目と併せて考えたい
配慮項目
リフォームを考える際は、前述の重点項目の他、以下の配慮項目にも目配りしましょう。重点項目と併せて解決できる項目もあるはずです。
❺「主要動線上のバリアフリー」 の大切さはいうまでもないでしょう。「ドアは身体を前後に動かす動作が入るので、足腰が弱ると開け閉めしづらくなります。リフォームなら、既存のドアの枠の上から吊戸を取り付けできるアウトセット吊戸がおすすめ。なるべく少ない力で扱える、ソフトクローズタイプがいいでしょう」。
握力も衰えていくので、玄関ドアは丸いドアノブよりもつかみやすい大型の引手のほうがいいといえます。「電気錠や顔認証など非接触で開閉できるタイプであれば、荷物が多い時や、杖を使うようになっても開閉がラクになります」。
❻「設備の導入・更新」では、安全性と使いやすさ、メンテナンスしやすさが着眼点となっています。最新の設備は省エネ性能も向上しているので、上手に取り入れて光熱費の削減にもつなげたいところ。重点項目1の「温熱環境」とも関連する項目です。 高齢者にとっては、掃除もだんだん重労働になってきます。「視力が落ちるので、汚れも認識しづらくなります。ホコリがたまりにくいシンプルな造作にする、汚れが付着しにくい素材を選ぶなど、お手入れしやすい空間づくりを心掛けましょう」。
❼「光・音・匂い・湿度など」は、住環境を構成する大事な要素。「高齢になればなるほど、身体を動かす時間より、ただ座って窓の外を眺める時間が増えていくものです。そのとき、居ながらにして自然の光や風を感じられたらいいですよね。採光や通風、適切な遮音はウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)に欠かせません」。
配慮項目の最後に挙げられているのが、❽「余剰空間の活用」です。例えば、かつては一家4人で暮らしていたのに、今は2人だけになったとしたら、使わなくなった部屋をどう生かすか。
「日常の生活空間を片付いた状態にしておくために、空き部屋を納戸にしてしまう方法もあるでしょう。余剰空間が1階にあるなら、社会参加のために外部に開くことをお薦めしたいですね。例えば、ご近所の人と気軽にお茶できるような、縁側的な空間をつくってはいかがでしょうか。離れて暮らすお孫さんも遊びに来やすくなるかもしれませんよ」。
プロに間に入ってもらえばスムーズにいくことも
あなたにぴったりの相談相手は?
高齢の親に対してリフォームを切り出すことは、ときに難しい場合もあります。そういうときは「前出の相性診断を活用したり、あるいは第三者に間に入ってもらうといいでしょう」とのこと。高齢者住宅協会では、さまざまな専門性を持つ相談員が初回無料で相談に応じるオンライン窓口を設けています(予約制)。
「リフォームという慣れない経験のなかで、お施主様が疑問や不安を抱くのもうなずけます。とくに施工の段階に入ると、職人さんたちにお任せになりますから。でも工程の要所で現場に入って自分の目で施工の内容を確認したり、現場担当者などとコミュニケーションする機会を持てたりすると、安心できるはずです」。
「ライフビジョンシート」で、
まず課題を明確にする
元気で何事もなく暮らせていれば、住まいの課題には気づきにくいものです。子世帯が心配しても、なかなか聞く耳を持ってもらえないかもしれません。「客観的に考えるためにも、私たちが用意したツールを活用していただけるといいですね」。図8は将来の生活を"見える化"するための「ライフビジョンシート」。前出の「あなたと住まいの健康度」相性診断も掲載されています。いずれも高齢者住宅協会のホームページからダウンロードできます。
ある程度具体的な課題が見えてきたら、前出のオンライン相談などを活用し、プロを交えて話し合うといいでしょう。
「高齢者住宅協会の窓口では、そもそも今の家に住み続けられるかどうかという相談や、サービス付き高齢者向け住宅などへの住み替えの相談にも応じています。相談員ごとに対応できる相談内容を明記していますから、お悩みに合わせてお問い合わせください。親子でリフォーム内容について検討するなら、ベテランのケアマネジャーと話してみるのもおすすめです。生活の側面から、将来の見通しをどう考えればいいか、きっといいアドバイスがもらえると思います」。
すでに住まいの課題が明確になっているなら、直接リフォーム会社に相談するのもいいでしょう。高齢者住宅協会では、国の補助事業により、高齢期に適したリフォームを提案するための、リフォーム事業者向けの研修を実施しています。修了者のいるお店を紹介することもできますので、お気軽に相談窓口へお問合せください。
TDYのコラボレーションショールームでは、TOTOの水まわり、DAIKENの内装建材、YKK APの窓・玄関ドアなど、高齢者を含む多世代が長らく快適に暮らすための商品をご覧いただけます。
またTOTO、DAIKEN、YKK APがご提案している「十人十家(じゅうにんといえ)」でも、それらの商品を取り入れたさまざまなリフォーム空間をご覧いただけますので、ぜひご活用ください。
高齢者の快適な暮らしをつくる
リフォーム商品のご紹介
高齢者を含め、家族全員の暮らしやすさを配慮した商品です。「オンラインリフォーム相談センター」もぜひご活用ください。
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DAIKEN ハピア/リビングドア
アウトセット吊戸(片引/引分)枠の上から吊戸を取り付けできる省施工タイプの室内ドア。敷居がなくバリアフリーな上吊式で、開閉もスムーズです。
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DAIKEN 戸建用各種用途床材
おもいやりフロアⅣ高齢者や介護が必要なご家庭におすすめの、滑りに配慮した床材です。車いすの走行傷、水や汚れにも強いのでお手入れが簡単です。
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DAIKEN ひいて、ひらく。新発想から生まれた大開口ドア
ひきドア通常は引戸で出入りでき、開き戸を開けば車イスも出入りできる大開口を実現。生活に必要なさまざまな空間を理想的な動線で繋ぎます。
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YKK AP マドリモ
断熱窓壁工事不要のカバー工法で、窓をスピード交換。カラーバリエーションも、人気の樹脂窓なら外観色と内観色をそれぞれ選んで、10通りの組合せが可能です。
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YKK AP ドアリモ
玄関ドア D301日でかんたんに交換できる玄関ドアのリフォームで、外気の侵入を抑える断熱ドアに変わります。
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TOTO TOTOの
ユニバーサルデザインつくるって、人を思うこと。さまざまな人の使いやすさを追求する活動から、「ライフステージに応じた住まい」をご提案いたします。
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TDY オンラインリフォーム
相談センターご自宅にいながら、お持ちのスマホ・パソコン・タブレットで、簡単にリフォームについてご相談いただけます。
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TDY 3省連携、「住宅の省エネリフォーム支援」補助金スタート!
国土交通省、経済産業省、環境省が連携する新たな補助金制度が創設されました。補助金を活用して、おトクに、快適な省エネリフォームをご検討ください。
※この記事内容は、2023年2月28日時点での情報です。ご了承ください。
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