(写真/すべてYKK AP、プレイス・コーポレーション)
築年数の古い住宅でも耐震性や断熱性などの性能を高めるリノベーションを行えば、
地震に強く、暑さや寒さに悩まされることのない、快適な住まいになります。
今回はそうした性能向上リノベーションの実績豊富な建築コンサルタントの黒田 大志さんと、
建築家の吉田 立さんに鎌倉で手掛けた改修事例を通して、メリットと注意点を解説していただきます。
プロフィール
黒田 大志さん
1973年山梨県生まれ。1996年野村ホーム(株)、2003年(株)都市デザインシステムを経て、2008年(株)リビタで社宅・団地再生、戸建てリノベーション事業構築に携わり、その後独立しGECKOを開設、Japan.asset management(株)取締役、u.company(株)パートナー、リノベーション推進協議会品質基準技術委員も兼務。吉田 立さん
1972年神奈川県生まれ。1996年野村ホーム(株)、1998年(株)秋田設計を経て、2001年リツデザイン一級建築士事務所として独立。2014年戸建リノベーションにてグッドデザイン賞他、2018年工学院大学建築学部非常勤講師。現在のリノベーション技術なら新築以上の
性能にまで高めることが可能
今回、黒田さんと吉田さんが取り組んだ「鎌倉の家」は、築46年の木造2階建てのリノベーション事例です。YKK AP株式会社が2017年から取り組む「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」の一環として行われました。このプロジェクトは、全国各地の先進的事業者と協働し、一般的な木造住宅の断熱性と耐震性などの性能を、リノベーションで一般的な新築以上のレベルにまで引き上げることを目指すものです。
今回のリノベーションの舞台となったのは、鎌倉駅から徒歩20分ほどの閑静な住宅地。緑豊かな環境でありつつ都内への通勤圏内でもあり、人気のエリアです。その一方、開発から40年以上が経過し、住人の高齢化、建物の経年劣化の問題も顕在化してきています。
築46年となる鎌倉の家もそうした住宅のひとつでした。今回のプロジェクトでは、不動産会社の株式会社プレイス・コーポレーションが企画し、黒田さんがコンサルタントとしてリノベーションにおける建物チェック、コストなどのポイントをサポート、吉田さんが設計を担当しました。
黒田さんは一級建築士でありつつ不動産業界にも関わり、リノベーションや中古住宅流通などの経験・知見も豊富。「今回の鎌倉の家を現場で調査した際の第一印象は、"こだわって建てられているな"、ということ。間取りのバランスもいいし、和室もディテールまで丁寧につくられています。屋根の葺き替えなどメンテナンスもきちんとされていて、傷みや劣化が少ないようでした。リノベーションして、さらに長く住み続ける価値を感じました」と語ります。
その一方、1970年代に建てられたことから、耐震性は現在の基準より下回る可能性が高く、耐震改修は必須。また、窓が昔ながらのアルミサッシのままなど全体的に断熱性が低かったため、断熱材を総入れ替えし、高断熱の樹脂窓に交換することがリノベーションの前提となりました。「今の建築技術、建材・設備の性能を生かせば、中古住宅を新築以上の性能にまで高めることは十分に可能です。そのうえで、近隣の新築住宅の建設費と比べて安いコストで仕上げることを目指しました」。設計にあたって、吉田さんはこのように考えたそうです。
中古住宅のメリットは、なんといっても新築住宅よりも安価に入手しやすいこと。駅近や人気の住宅地など立地や条件に恵まれた物件も多数存在します。また、現行の法規では再建築不可の物件、建て直すと規模が小さくなってしまう物件などでも、リノベーションなら、現状の規模などを生かしながら快適な住まいに生まれ変わらせることが可能です。
黒田さんと吉田さんがどのような工夫を鎌倉の家に盛り込んだのか、次の章からご説明します。
南側の窓まわりを改善して
耐震性と断熱性を同時に向上
「鎌倉の家」は、鎌倉市の高台の住宅地にあります。リフォーム前から南に広がる大きな庭と、そこに向かって大きな掃き出し窓のある開放的な雰囲気の建物でした。「鎌倉ならではの豊かな自然ともつながっていることは、この家の魅力です。そこで、1階南の掃き出し窓を通じて、オープンなLDKはもちろん、北側の寝室や書斎でも豊かな自然を堪能できることを意識して設計しました」と吉田さん。
以前はリビング、ダイニングキッチン、8畳の和室、個室と細かく分かれていた1階は、光や風が行き届かず、閉鎖的な印象でした。そこで、南の掃き出し窓に沿って広々とした土間を配し、そこから大きなワンルームのLDKを連続させることに。さらに北側の2室と書斎とが一体化したスペースを緩やかにつなぐ間取りに再構成。1階全体がひと続きの、明るく広々としたオープンスペースとなりました。
2階は、以前は4畳半の和室と2つの6畳の洋室でしたが、リノベーションによって広い寝室とウォークインクローゼット、ラウンジに変更。ラウンジ前にはインナーバルコニーを設け、2階でもくつろげるプライベートな空間としています。
まず、いちばんのポイントは、「壁や柱の少ない開放的な間取り」と「断熱性と耐震性の向上」という、技術的には相反するような要望を両立させることでした。
「こういう中古住宅では、たいていLDKが1階にありますが、やはり壁や柱の少ないオープンなスペースにしたい。でも多くの場合、耐震性を高めるなら、耐力壁を増やして適切に配置しなければなりません。また柱や梁も補強する必要があります」(吉田さん)。
震度6強の地震でも倒壊しない、耐震等級3相当まで耐震性を高めるために取り入れたのが、「主に家の外周部で壁量を確保する」という方針でした。そのため、東面と西面の窓は最小限にまで減らし、その分、耐力壁を造設。これは西日の熱を遮断するとともに、東西の隣家との間にプライバシーを確保して落ち着いた雰囲気を出す効果もあります。
さらに南の掃き出し窓周辺には、開口部耐震商品「フレームⅡ」(YKK AP)を取り入れました。これは木質耐震フレームに高性能樹脂窓を組み合わせたもの。南側の既存の掃き出し窓の数や面積を減らさずに掃き出し窓付近の耐力壁の量を増やす効果があり、断熱性と耐震性の向上を同時に実現できました。
窓には高性能樹脂窓「APW 330」(YKK AP)を採用しました。当初の予定通り床、壁、天井の断熱材も入れ直し、住宅の断熱性を改修前の約7倍に向上させています。冬の室内での体感温度が13℃を下回らないHEAT20 G2 相当※1の性能となったことで、夏の屋内での熱中症、冬場のヒートショックなどの健康リスクが大幅に低減しています。
※1「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」が定めたH28年省エネ基準やZEH(ゼロエネルギーハウス)基準よりも高いレベルの省エネルギーを目指す住まいの推奨基準のこと。G1、G2、G3まで3段階のグレードがあり、数字が大きいほど高性能になる。詳しくはこちら
そのほか、解体時に筋交いや柱、梁、基礎などの表からは見えない建物の構造の状態をチェック。腐朽していた浴室まわりの柱を交換したり、必要な部分には、既存の梁にさらに新規の梁を添えて補強しました。基礎には鉄筋が入っていなかったので、基礎を全体的に打ち増ししたほか、建物全体をジャッキで持ち上げ、南側の一部に新たに基礎を施工。また改修前は土が露出していた床下部分には、土間コンクリートを敷設して地面からの湿気を防いでいます。
「可変性の高い間取り」で
長く住み継げる家に仕上げる
浴室を南側の元玄関の位置に動かしたのも、住まいに快適さを生む工夫。「南の広々とした庭の開放感を浴室にも取り込むためです。玄関ポーチだった場所は、バスコートに変えました。バスコートとは"浴室からつながる中庭"のこと。外からの視線を防ぎつつも、浴室には光が注ぎ青空を仰ぐこともできます」(吉田さん)。
浴室は、在来工法のお風呂からシステムバス「サザナ」(TOTO)に変更。「実は、私の自宅兼事務所も中古住宅のリノベーションですが、浴室はサザナを利用しています。掃除がしやすくなるようなさまざまな機能が組み込まれていて、気に入っています」。
もうひとつの設計のポイントは、プランニングの「可変性」です。たとえば、あえて家具や収納を造りこまなかったのもその一つ。住む人がそのときどきの必要性に合わせてカスタマイズできるようにしました。また、1階の2つの個室は、子ども室のほか、夫婦それぞれのテレワークスペースとしても利用するイメージ。2階の大型クローゼットは場所を確保しておき、自由に収納ボックスなどをレイアウトして使いこなす。後には個室に転用も可能です。
「用途を固定しない"余白"を間取りに残しています。予測できない急激な社会の変化にも柔軟に対応できるような家がこれからの時代には必要ではないでしょうか。住み始めてからの社会の変化、家族の変化に応じたカスタマイズにも、ぜひ建築家の視点からアドバイスさせていただきたいですね」。
既存の住宅の持つ潜在的な魅力を引き出しながら、空間を再構築し、断熱性や耐震性を時代が求めるレベルに更新する。そうすることで「次世代に住み継ぐ」という文化が育っていく。吉田さんはそのように考えています。
TDYのコラボレーションショールームでは、TOTOの水まわり、DAIKENの内装建材、YKK APの窓・玄関ドアなど、3社の商品をご覧いただけます。
またTOTO、DAIKEN、YKK APがご提案している「十人十家(じゅうにんといえ)」でも、さまざまなテーマから暮らしを快適にするリフォーム空間をご覧いただけますので、ぜひご活用ください。
住宅の性能向上に関わる
リフォーム商品のご紹介
効率的なリフォーム工事や、快適な空間の実現にも配慮したラインナップです。
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YKK AP 高性能樹脂窓
APW 330国内最高基準の断熱性をもち、高い省エネ効果を発揮。熱の出入りを抑え、夏も冬もいつも快適。エコ住宅との相性も抜群です。
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YKK AP 耐震フレーム+窓
フレームⅡ窓を減らさず耐震補強を可能にし、同時に窓まわりの断熱化まで行えます。新築でもリフォームでも「耐震+断熱」を実現します。
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YKK AP 断熱玄関ドア
ヴェナート D30豊富なデザインとカラーバリエーションからお選びいただけます。毎日のカギの開け閉めが便利なスマートコントロールキーを搭載しています。
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DAIKEN ハピア 間仕切戸
ラインフレームスリムなフレームにシックな黒が映えるスタイリッシュな間仕切戸。プラスαの暮らしが楽しめるインナーテラスに最適です。
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DAIKEN ダイライト耐震かべ
かべ大将お住まいの家を地震に強くする耐震リフォーム向けの商品です。天井も床も壊さずに取り付けができるため、工事日数が短く、コストも抑えられます。
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TOTO 戸建て住宅向けシステムバスルーム
シンラリラックスを追求した新機能。日常を快適にするTOTOのこだわりをバスルームに。
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TOTO 戸建住宅向けシステムバスルーム
サザナ掃除のしやすさ・収納の便利さなど、おふろを使う人、お手入れする人、みんなにとっての「しあわせ性能」を追求したバスルームです。
※この記事内容は、2021年7月28日時点での情報です。ご了承ください。
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