(写真/すべてルーヴィス)
今はだれも住んでいない実家。取り壊すのはもったいないけど、使い道がない...。
でもそのまま放置していては、固定資産税がかかるばかりでなく、老朽化による倒壊の危険などもあります。
そんな空き家をリフォームして活用しようという動きが全国各地で見られるようになってきました。放置するリスクを認識したうえで、
国や自治体による空き家対策、活用のポイントなども理解しておきたいものです。
今回は、空き家再生のプロである株式会社ルーヴィス代表の福井 信行さんに
空き家活用リフォームのポイントと事例を紹介いただきました。
株式会社ルーヴィス
代表取締役 福井 信行さん
https://www.roovice.com/
倒壊や防犯リスク、固定資産税負担
を解消する空き家対策を
2018年(平成30年)の総務省の住宅・土地統計調査によれば、日本の総住宅数6,242万戸に対して、空き家数は849万戸。2013年と比べると29万戸も増加し、空き家率は過去最高の13.6%を記録しました。日本の住宅の7戸に1戸は空き家ということになります。
内訳では、賃貸用の空き家が過半数を占め、居住者が長期不在の住宅や建替えで取り壊し予定の住宅の「その他の住宅」が5年前より31万戸も増加。全空き家数の約41%にも及びます。
こうした空き家のうち、賃貸用や売却用は不動産流通市場で売買の対象となりますが、「その他の住宅」に関してはメンテナンスされることもなく、放置されたままのことがほとんどです。空き家が発生する原因は様々ですが、平成26年空家実態調査(国土交通省)では、親が亡くなって相続したり、住まい手が施設に移ったり、病院に入院したり、といったケースが多いようです。
福井 信行さんが代表を務めるルーヴィスは、こうした空き家をリフォームして再生させ、活用する事業を手掛けています。「空き家を放置していると様々なデメリットが生じます。所有者は固定資産税を毎年支払うことになりますし、建物は老朽化が進めば地震などで倒壊する危険もあります。また放火やごみの不法投棄、落書き、害虫・害獣の発生源となり、ご近所に迷惑をかけてしまうことにもなりかねません」(福井さん)。
2015年には、空き家の適正管理を義務づける「空家等対策特別措置法」が全面施行されました。放置された空き家に対しては、罰金や「特定空家」への指定などの措置が行われます。特定空家の指定を受け、改善の勧告を受けると、改善されるまで土地にかかる固定資産税の住宅用地特例の対象から除外され、更地と同等の6倍の税額となってしまいます。
そんなリスクを残したまま、次の世代に相続させるのは、まさに「負の遺産」。早めに適切な処置を施して売買や賃貸などに活用できるようにしたいものです。
空き家活用のポイント
空き家のリスクを解消するためには、主に「住む」「売る」「貸す」という選択肢があります。
住む
- 放置されていた空き家に所有者本人が住むためには、建替えるか、安全・快適に生活できるように再生リフォームをする必要があります。建物の状態によって工事費は異なります。
売る
- 更地にすれば買い手はつきやすくなりますが、撤去費用は所有者負担です。空き家を現状のまま売却する場合も、土地のみの価格になるケースがほとんどです。それどころか、古家があるためにその撤去費用分が差し引かれるおそれがあります。
貸す
- アパートに建替えたり、更地にして駐車場などにして貸すという選択肢もあります。費用はかかりますが、賃料収入が見込めます。
一方、福井さんが提案するのは、「リフォームして価値を付加したうえで売る、貸す」という選択肢です。リフォームにかかる工事費などと、売却や賃貸で得られる収入のバランスさえ考慮すれば、所有者の負担やリスクを抑えることも可能。「家具は古いものでもきちんと修理すれば、その魅力が評価されて売値に反映できますよね。建物も同じことが言えると思います」
ただし、土地の諸条件によって空き家が活用しにくい場合もあります。たとえば敷地が幅4m以上の道路に2m以上接していないと、建築基準法では新築、建替えはできません(リフォームは可)。また、建物があまりに老朽化していれば柱や梁などの構造部分から見直すケースもあります。空き家再生活用の検討にあたっては、不動産と建築の双方に通じた専門家のアドバイスを求めるようにしましょう。
空き家再生活用の
もうひとつの選択肢
所有者の費用負担を軽減する、
借り上げベースのサービスも
空き家の活用には前述したようにいくつもの方法があるものの、未だに毎年のように戸数が増加しています。福井さんは「空き家の所有者は、"古い家に住みたがる人がいるのか"、また"リフォームに投資した金額が賃料で本当に回収できるのか"、という不安があるので、なかなか決断できないことが多い」と指摘します。
そんな状況を解消するために、2015年から福井さんが始めたのが「カリアゲ」というサービスです。「築30年以上で1年以上空いている物件」を対象に、想定賃料の3年半分までの金額を上限として、リフォームにかかる費用をルーヴィスで負担する、という仕組みです。その条件で所有者から空き家を借り上げ、入居者に転貸。入居者の募集や管理もルーヴィスが代行します。
最初の6~8年はルーヴィスが所有者に賃料収入の10%を支払い、その後は入居者のついた状態でそのまま所有者に引き渡します。この方法には、所有者がリフォーム費用を支出することなく、空き家の資産価値を高めたうえで再生活用できるというメリットがあります。
「都内だけでも空き家が80万戸以上あります。築30年以上の古い物件では賃料は周辺よりも低くなりがちで、空室率も高くなっています。でも、その古さを味わいとして生かすようにリフォームすれば必ず入居者はつくはず」(福井さん)。
既存の魅力的な部分は生かしながら、変えるところは大胆に新しくする。そんな手法でコストパフォーマンスのいいリフォームを行い、数多くの空き家を再生させています。
さらに「カリアゲ」のサービスから派生した形で、企画会社YADOKARIと提携して2019年7月にオープンさせたのが、マッチングサイト「空き家ゲートウェイ」です。所有者が「安くてもいいから手放したい」という訳アリの空き家を全国から募集。「100万円物件」と「100円物件」の2つのカテゴリーに分けてウェブサイトに掲載し、購入希望者を募るという仕組みです。デメリットやリスクも承知の上で、購入したいという希望や相談が後を絶たないといいます。
これから日本の人口は減少し、空き家もさらに増えていく可能性があります。カリアゲや空き家ゲートウェイの取り組みには、「みんなが空き家とポジティブに向き合えるようにしたい」という福井さんの思いが込められています。
[リフォーム事例1]
東京都杉並区の家
東京都杉並区にある築50年の木造2階建ての日本家屋をリフォームした例です。高齢になった所有者はすでに駅前のマンションに引っ越し、空き家になっていました。延床面積は約140m2、4LDKのゆとりある間取り。既存の板張りの内装、建具や照明器具、竹の手すり、洗面台のタイルをそのまま残すなど、昭和の時代を感じさせる上品なたたずまいを生かし再生しました。庭に面した居室の開放感や日の当たる縁側の心地よさも魅力的。手を入れる箇所はなるべく抑えて工事費をコストダウンしています。最寄駅からは徒歩18分の距離があるものの、すぐに入居者が決定。現在、4人家族が暮らしています。
ダイニングキッチンの床は張り替えたものの、既存の木製の窓枠、壁、洗面台のタイルなど多くを生かしています。
[リフォーム事例2]
六本木のビル
東京メトロ日比谷線六本木駅近く、RC造地下1階地上5階建てのビルのリフォーム例です。地階と1階は貸店舗、2~4階は住戸に。立地のよさから、隠れ家的なセカンド・ワークスペースとして使う人も多いそうです。15年近く空き家として放置されていた物件ですが、ツタに覆われ落書きされていた外壁もリニューアル。内部では給排水設備、ガス機器、窓などを新しくして生活空間としての機能を加えました。その一方で、内装の仕上げは最低限にとどめてコストバランスを調整。一部の壁だけレンガ風のタイルで仕上げてアクセントに。オフィスとしてのニーズに応え、セキュリティやWi-Fi設備も万全に整えています。
既存の内装を取り払い、自由に家具などを配置できるようシンプルな空間にしました。シャワーのみにするなど水まわりはコンパクトに。
[リフォーム事例3]
弁三アパート
戦後、横浜市で計画された防火帯建築のひとつである、1954年竣工のRC造の賃貸集合住宅のリフォーム例です。10戸のうち6戸を「カリアゲ」の対象として、再生を依頼されました。和室2間+ダイニングキッチンという間取りでしたが、間仕切りを取り払って、大きなワンルームのLDK空間に変更。開口部からの採光が室内いっぱいに広がるようにしました。内装は白をベースにフローリングを組み合わせてナチュラルモダンなインテリアに変更し、水まわりはキッチンやトイレ、浴槽などの設備機器を一新。幅広い人に受け入れてもらえるような明るい雰囲気に仕上げたことで、入居者もすぐに決まりました。SOHO利用も想定して、より自由度の高い空間を目指し収納は可動式にしています。
上はリフォーム後、左下は同じ角度から撮ったリフォーム前の写真。右下は現在の外観です。
戸建性能向上リノベーション
実証プロジェクト、進行中
現在、YKK APからのご提案で、戸建の既存住宅を対象としたリノベーションの実証プロジェクトが進んでいます。空き家を含む既存住宅の断熱や耐震などの基本的な性能の向上を重視しました。断熱性はHEAT20のG2、耐震性は耐震等級3相当が目標。通年快適な室温を保つと同時に、震度6、7の地震でも軽微な補修で済むレベルの安全・安心な住まいに生まれ変わります。プロジェクトは2017年にスタートし、全国各地の不動産会社や工務店の協力を得て11棟が完成しました。今後も棟数はさらに増える予定です。
信州「小諸の家」 事業主:株式会社リューケンハイム
※この記事内容は、2020年5月27日時点での情報です。ご了承ください。
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