せっかくリフォームするなら見た目や設備を新しくするだけでなく、
家の性能を高めて夏涼しく冬暖かい住まいにしたい。
でも、どこに相談したらいいかわからないし、なんだか難しそう...。
そんなもやもやを抱えている人に例を示そうと、実際に自社のモデルハウスのリフォームに取り組んだのが、
東京都西東京市を拠点とする工務店、岡庭建設です。
納得のいく性能向上リノベーションを実現するために必要なことを教えてもらいました。
プロフィール
岡庭建設株式会社 専務取締役 一級建築士
池田 浩和(いけだ ひろかず)さん
2015年キッズデザイン賞、2016年ウッドデザイン賞、2016年東京都多摩産コンクール優秀賞、2022年性能向上リノベデザインアワード選考委員賞他受賞。
JBN全国工務店協会副会長ほか工務店団体の役を務める。
岡庭建設株式会社 https://www.okaniwa.jp/
これから求められるのは
住宅の性能を高めるリノベーション
これまでのリフォームと、岡庭建設が手がける「性能向上リノベーション」は何が違うのでしょうか。同社の家づくりで中心的な役割を果たしている専務の池田 浩和さんに、"これからのリノベーション=性能向上リノベ"に必須のポイントをうかがいます。
「これからの時代に求められる家」の
新しいスタンダードを
目指す
岡庭建設は設立以来、50年以上、地域密着型の工務店として家づくりに取り組んできました。
「近年、社会全体が大きな転換期を迎えているように思います。当社は、"これから私たちが暮らす家はこうなります"ということを示したかったのです」(池田さん。以下、発言はすべて池田さん)。
そこで、築25年になる同社のモデルハウスを、もとの構造材はそのまま生かしてリノベーションし「これからの時代に求められる家」を形にしました。
現在、国は、2050年までに、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるという「カーボンニュートラルの実現」を掲げています。新築はもちろん、既存住宅についても気密・断熱※性能を高めて、できるだけエネルギーを使わずに暮らせるようにするという方針です。
※断熱は外気温が室内の温度に伝わらないようにすること。気密は壁の穴などを塞ぎ密閉して室内の温度を保つこと
住宅の気密・断熱性能が高まれば、室内の温熱環境も季節を問わず、快適に保ちやすくなります。冷暖房などの光熱費が抑えられるというメリットもあります。
「人が暮らしていくうえで大切な住宅の性能は、それだけではありません。たとえば地震や台風など自然災害への備えのほか、長く住むための手入れのしやすさも重要です。また人の五感に心地よい自然素材も取り入れたいもの。私たちの考える"これからの家"について社内で話し合いながら、プランをまとめていきました」(池田さん)。
完成したプランのコンセプトは"サステナブル(人間・社会・地球環境の持続可能な発展)×レジリエンス(災害対応力)"。CO2削減やエネルギーの自給自足、建物の長寿命化などサステナブルを意識した工夫や、災害対応力を配慮したリノベーションが計画されました。
「もし、木造住宅を解体して燃やすと、大量の二酸化炭素が空気中に放出されますね。そう考えると、リノベーションするという選択肢そのものがCO2削減につながるわけです。その結果、性能が向上して快適に暮らせるなら、人にも地球にも優しい住宅になりますよね」。
環境、快適な暮らし、
災害対策などに留意して、
リノベーションを計画
「ふじまちテラス」の性能向上のポイントは6つ。では、実際にどんなアイデアや工夫が盛り込まれたのか、ご紹介していきましょう。
6つのコンセプトで住まいの性能を総合的に向上
カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」という意味です。
柱や梁などの構造材以外はすべて解体した後、十分に活用できる構造材を見極めて耐震補強しました。また、「断熱リフォーム」も行いました。もともとあった断熱材を新たに入れ直したうえに、さらに室内側にも加えて、家全体の断熱材の厚さを90mmから105mmにまで増やしています。 さらにリビングダイニングには、断熱性能の高い樹脂製のフレームに2層の断熱層を設けたトリプルガラスの窓を採用。建物の外皮(外気に接する屋根・外壁・窓・床など)から熱が逃げにくくなるようにしました。
建物の外皮から熱が逃げにくくする性能は、UA値(外皮平均熱貫流率)という指標で表されます。値が小さくなるほど熱が逃げにくく、性能が高いことを示します。
2009年に住宅業界の関係者や研究者などによって発足した団体「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(略称・HEAT20)」が定める性能基準では、首都圏などの地域で冬の最低室温が「おおむね10度を下回らない」レベルの性能をG1、13度を保つのがG2、15度を下回らない性能をG3と規定しています。
「ふじまちテラス」はリノベーションによってUA値は0.31W/m²Kを実現。これは、「G2」レベルに相当します。
国土交通省の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」で定められている「断熱等性能等級」で表すと、「ふじまちテラス」は25年前に新築された時点では断熱等級4のレベルでした。 「当時は最先端だった、いわゆる"次世代省エネ基準"で計画しました。しかし、これは1999年に制定されたものです。それが今回のリノベーションで、断熱等級6と7の間くらいのレベルにまで高めることができました」
なお、当モデルハウスには浴室はありませんが、手掛けたほかの住宅などでは省エネに配慮して、浴槽に高断熱タイプを採用するなどしています。
屋根には太陽光発電を搭載。 さらに蓄電池も取り入れて、太陽光で発電した電気を貯めて、夜間でも使えるようにしました。 「発電→貯める→使う」という再生可能エネルギーのサイクルによって、光熱費も節約しやすくなります。
「当社ではこれまで太陽光発電を載せた建物はそれほど多く手がけていませんし、蓄電池を設置したのも初めてです。 今回、実際にそれぞれ設置してみて、どのくらい本当に発電できるのか、そのエネルギーをどう活用したらいいのか、 あらためて考えるきっかけになりました。今後、太陽光発電や蓄電池を希望されるお客様にもこの経験をもとにご説明できるのではないかと思います。」
「ふじまちテラス」では、地球環境に負荷をかけず、自然に還る素材を多用しています。もともと構造材として柱・梁に使用していた輸入材を除き、 リノベーションで新たに加える素材は国産にこだわりました。日本の森林の伐採から植樹というサイクルを守るということのほか、 海外から木材を輸送するエネルギーを削減するという意味合いもあります。
そのほか、外壁・内壁下地には、土に還せる壁材を採用。内装には、徳島スギやヒノキ、クリなどの国産無垢材のほか紙クロス、障子照明などを使いました。 「長く心地よく住むなら、床、壁、ドアなど、直接触れる場所は手触りの良い素材がいいですね」
長寿命化は同社の家づくりでは欠かせない要素のひとつ。 「もともと当社では、引き渡した建物を定期的に点検、メンテナンスする仕組みをつくり実施してきました。 何か大きな劣化や支障が起きる前に手当てをしておくことで、家は長持ちするし、安心して暮らせます。建物の資産価値も守れます」。
こうした同社のメンテナンスのノウハウを反映させて、基礎・構造には耐震補強を施し、劣化しやすい水まわりの配管や電気配線などは交換しやすい設計に。 耐震性や耐久性、暮らしの変化に対応できる可変性やバリアフリー性、省エネ対策など長期にわたって住み続けられるように、 長期優良住宅の仕様を取り入れています。
同社では2016年に災害対応型モデルハウスを公開。「ふじまちテラス」にもそのコンセプトを生かしています。
太陽光発電と蓄電池で、災害時の停電のなかでも電気が使えるようにしたほか、雨水タンクや電気自動車の充電設備などを搭載。
設備機器やコンセント、電気配線などは、水害時にも被害を受けにくいように床上60cm以上に設置しています。
「この土地は浸水エリアという指定はないのですが、万一、想定外の水害を想定して備えてあります。
地震などの災害が起こることは避けられませんが、災害が起きた後、いかにして、速やかに復興できるかが大切。
被災した部位を交換しやすいように分割したつくりにするなど、リスクを最小限にすることを考えました」(池田さん)。
断熱性能のレベルを引き上げるだけでなく、
自然の風が室内をうまく流れるように通風計画を考えたり、
軒や植栽などで直射日光をほどよく遮ったりする工夫も取り入れました。
心身に快適な室温、環境を保つことで、高性能エアコンなどの設備だけに頼ることなく、
快適で健康的な住宅を目指します。
「この建物は新築当時の最高水準の断熱性能にしたのですが、それでも室内は温度差が生じて、
冬は足元が冷えました。今回、断熱等級6を超える性能になったことで、夏も冬もエアコン1台で快適な室温を保てるようになりました」
地域ごとに長く住み続けるための工夫が大切
「ふじまちテラス」は、先進的な事例として住宅業界の内外から高い評価を受けています。こうしたリノベーションを実践するにはどうしたらよいのでしょうか。
「長期優良住宅」の実績のある
工務店に相談を
「ふじまちテラス」は、「性能向上リノベデザインアワード2022」(主催:性能向上リノベの会/YKK AP)で選考委員賞を受賞しています。 このアワードは、中古住宅の間取りの変更や内外装の刷新、設備の更新・改修に加え、断熱性能と耐震性能を向上したリノベーション事例や取り組みについて、 その価値を表彰するというもの。
「この事例で実践しているのは、実は、特別なことではありません。どの住宅会社や工務店さんでもできることです。 大事なのは、先にご紹介した6つのポイントをプランに反映させることです。災害対応力など各地域の状況の把握は必要ですね」
では、性能向上リノベはどのような会社に依頼するとよいのでしょうか。
「もとの建物の性能を高めていくための設計力、また既存の柱・梁などの構造をきちんと扱える大工技術などの施工力、両方が必要になります。
そういう意味では、長期優良住宅の制度では設備の更新や定期点検が求められますから、その実績のある会社であれば、性能向上のノウハウはありますし、
長期にわたる耐久性やメンテナンス性などの意識も高いはずです。さらに家全体の断熱・耐震改修などリノベーションの経験が豊富であれば、
一度相談してみるとよいと思います」
住宅の性能向上というと、気密・断熱性能に目が向きがちです。でも、それだけではなく、末永く暮らせるようにするためには、幅広い視点での改善が大切ですね。
TDYのコラボレーションショールームでは、TOTOの水まわり、DAIKENの内装建材、YKK APの窓まわり製品など、性能向上リノベに活用できる商品をご覧いただけます。
またTOTO、DAIKEN、YKK APがご提案している「十人十家(じゅうにんといえ)」でも、それらの商品を取り入れたさまざまなリフォーム空間をご覧いただけますので、ぜひご活用ください。
性能向上リノベーションに
おすすめの商品のご紹介
TDYには性能向上に重要な、気密性、断熱性、耐震性を高め快適な暮らしをつくる商品がそろいます。こういった商品を軸にプランを練るのも効率的です。
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TOTO 戸建住宅向けシステムバスルーム
シンラリラックスを追求した新機能を搭載しています。日常を快適にするTOTOのこだわりをバスルームに実現しました。
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DAIKEN 住まいの強度をアップする耐震改修キット
ダイライト耐震かべ かべ大将いまお住まいの家を地震に強くする耐震リフォーム向けの商品です。天井も床も壊さずに取り付けができるため、工事日数が短く、コストも抑えられます。
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YKK AP APW 430
高性能トリプルガラスで、世界トップクラスの断熱性能を実現した樹脂窓。シンプルなデザインで、美しい外観を演出します。
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YKK AP APW 330 防火窓
樹脂と複層ガラスによりハイレベルの断熱性を実現した新発想の「新しい窓」。熱の出入りを抑え、室内はいつも快適です。
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TDY オンラインリフォーム
相談センターご自宅にいながら、お持ちのスマホ・パソコン・タブレットで、簡単にリフォームについてご相談いただけます。
※この記事内容は、2023年5月31日時点での情報です。ご了承ください。
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