住宅のリノベーションのバリエーションがますます広がる中でも、
住まい手が着目する"リノベーションのトレンド"があります。
戸建てやマンションなどの住宅をはじめ多様なリノベーションを手がける株式会社リビタに聞いたところ、
2019年現在、「リビ充」「コンパクト」「職住一体」という3つのキーワードが浮かび上がりました。
分譲事業本部のグループリーダーの森本寛之さん、同本部コンサルタントの山田笑子さんに
キーワードそれぞれの社会的な背景や事例の特徴について伺いました。
株式会社リビタ
分譲事業本部グループリーダー森本 寛之さん
宅地建物取引士/二級建築士。
株式会社リビタ
分譲事業本部コンサルタント山田 笑子さん
一級建築士。
広々としたリビングに、好みの役割を充実させる「リビ充」
ひとつめのキーワードは「リビ充」。つまり、リビングを充実させることです。山田さんは、「リビタのお客様の7〜8割が、リビングを広々と快適に過ごせるようにリノベーションします。ほかの部屋は工事費を抑えることも」と話します。特に独立型のリビング、ダイニング、キッチンの間仕切り壁を取り払って一体型にし、住まい手のライフスタイルや趣味を反映させたLDK(リビング・ダイニング・キッチン)にするケースが多いといいます。
その背景にあるのは、たとえば「キッチンなどで家事をしながら子どもを見守りたい」「人を呼んでホームパーティーをしたい」といったニーズです。また、「家族が各個室にこもることを防ぐため、あえて個室を充実させず、LDKを居心地のいい空間にする」という考え方も影響しています。一方で、子どもの成長を見越してリビングの一角に個室をつくれるようにするなど、長期的な視野で、可変性も配慮してリノベーションする人が少なくありません。
間取りの大部分をリビングダイニングに改修したリビ充。
後に部屋を増やせる工夫も
では、ここで「リビ充」のリノベーション事例を紹介しましょう。ある4人家族は、「子どもたちが走り回れる間取りが最優先」「部屋を細かく分けると狭く感じるので、シンプルなワンルームが理想」という希望から、専有面積約70㎡の2LDKのマンションのほぼ全体をワンルームに変更しました(写真1,2参照)。ベッドルームもLDKの一角にレイアウト。「子どもの成長やライフスタイルの変化に合わせて間取りが変更できるように工夫しました。寝室隣のロフト+収納は、実は可動式。姉妹が成長したらほかの場所に移動して、子ども部屋をつくることもできます」(山田さん)
趣味などを楽しむ
セカンドリビングをプラス
また、2LDKのマンションの壁を一部取り払い、メインのLDKのほか玄関そばにセカンドリビングをつくった事例も(写真3参照)。「LDKはご夫婦が共にリラックスして過ごす空間、セカンドリビングは自転車のメンテナンス、ギター演奏、映画鑑賞などの趣味や友人との集まりを楽しむ多目的な空間として位置付けています」(森本さん)
昨今はライフスタイルや趣味が多様になり、リビングに求める要素も千差万別になっているようです。
LDKを一体型にするとき気になるのが、「日用品が見えて、生活感が出てしまう」という点ではないでしょうか。「おしゃれな調理器具や食器をディスプレイする"見せる収納"、引き戸などを取り付けて細々した調理道具から家電までしまう"隠す収納"など一工夫することで解決できます」と山田さんは話します。
家の広さも機能も「コンパクト」に。
他の機能は近隣で補う
2つめのキーワードは「コンパクト」。一般的には従来、マンションであれば70〜80㎡の広さを求める人が主流でしたが、シングルやDINKS※を中心に都心のコンパクトな住まいを希望する人々が徐々に増えているそうです。延床面積は50㎡前後、あるいはそれ以下のケースもあるといいます。
※Double Income No Kids(2つの収入、子供なし)の略語。子どもを意識的に持たない夫婦を指す
森本さんはその背景をこのように話します。「『職住近接』という考え方も関係しているようです。都心のコンパクトな家で暮らすことは、職場と住まいの距離を縮めて通勤時間を減らし、ゆとりある生活を楽しむことに繋がります。小さめの中古物件なら、比較的手ごろな価格で入手できることも理由のひとつです」
家がコンパクトでも不便はありません。都心には多様な店やサービスがあるので、住まいに生活に関するすべての要素が揃っていなくても構わないからです。たとえば、行きつけの飲食店があればキッチンはミニシンクなどの最低限の機能で構わず、外部のトランクルームを使えば広いクローゼットは不要に。
リノベーションのポイントは、
好みの機能のみ充実させること
そこで、都心の小さめの物件を快適にリノベーションするポイントは"メリハリ"。住まい手のライフスタイルに合わせて、こだわりのある機能を充実させます。たとえば、家族で過ごすリビングダイニングを広くする、帰宅後リラックスするためにバスルームの設備に力を入れるなどが考えられます。それ以外の機能は最低限に絞ったり、近隣のお店などで済ませられるなら思い切って省いてしまってもいいかもしれません。「長期間に渡る出張などでの"ホテル住まい+α"がイメージに近いでしょう」(森本さん)
そのような都心の「コンパクト」なリノベーション事例をご紹介しましょう。2人暮らしを想定し、専有面積約47㎡のマンションをワンルームに変更した事例です(写真4,5参照)。限られた面積の中でリビングダイニングを約23㎡となるべく広く確保。ワンルームにソファを仕切るように置き、背もたれの後ろ側にベッドを置いて寝室スペースとして使用する予定です。バルコニー側のインナーテラスの手前には格子入りのガラス戸を設けて、周辺の喧騒を防ぎつつ窓からの光を室内にたっぷり取り込みます。
「窓から外に視線が抜けるので、ふたりで暮らしても狭さを感じないと思います。バスルーム+洗面室は小さめですが、内装や水栓金具などの設備を厳選してホテルライクに仕上げています。食事は近隣の飲食店を、仕事をするときは近隣のコワーキングスペースやカフェを利用するイメージです」(森本さん)
自分らしく働き、住まうための「職住一体」
3つめのキーワードは「職住一体」。住まいの一角をワーキングスペースとして使ったり、小商いをしたりすることを意味し、「職住近接」の究極型と言えるでしょう。森本さんは、「職住一体」がトレンドとなっている背景には複数の要因が絡んでいると分析します。
寿命が延びて人生100年時代と言われる中、年金制度への不安感が高まり、定年後の資金調達まで考えて人生設計を練る必要が出てきました。「これに伴い、新築と比べコストが抑えられるリノベーションで新居を得つつ、そこで副業や新たな仕事にトライする人が現れています。働き方改革の意識が高まったことや、空き家再生が着目されるようになったこと、一等地に立地していなくてもSNSなどで集客できビジネスのハードルが下がったことなど、多様な社会背景が『職住一体』を後押ししています」(森本さん)
ここ数年、リビタでは戸建てとマンションいずれでも、魅力ある「職住一体」の事例をいくつも手がけてきたといいます。
中古住宅を購入して、
1階を猫本専門店、2階に生活機能を集中
延床面積約62㎡の中古の戸建てを購入し、1階を"猫本"の専門店、2階を住居という店舗兼住居にリノベーションした事例もそのひとつ(写真6、7参照)。1階を完全に店舗にするため、32㎡の2階部分にキッチンや浴室、トイレ、寝室といった生活機能をすべてまとめました。開店前や閉店後は、店舗も生活の場としても使います。
「住まい手のご夫婦は大の猫好き。『家をつくるなら好きなものに囲まれて暮らしたい』と、仕事と店舗兼住居のリノベーション計画を練りました。"猫のいる空間でコーヒーやビールを飲みながら本を読める"というコンセプトで人気を博し、店は注目されるようになりました」(山田さん)
住戸の半分以上を、
料理教室もできるキッチンにリノベーション
リノベーションした住まいに入居後、料理好きなご夫婦が、自宅で料理教室や食事会を開催するビジネスを立ち上げたという職住一体事例も(写真8参照)。
ご夫婦は築40年の庭付きの中古マンションを、カウンターキッチンを中心とした住居兼料理教室に改修しました。多くのゲストを招く空間として、玄関から庭まで続く奥行17.5mもの大きなLDKをつくりました。調理道具から食器、家電まで一挙に片づけられる、大型の壁面収納も計画。「入居後、ここで数十回のホームパーティーをこなした後、思い切って、料理やおもてなしを活かしたビジネスをスタートすることに」(山田さん)
一方、それほど大掛かりではなく、リモートワーク(在宅勤務)に対応できる気軽な「職住一体」リノベーションはどんどん増える傾向にあります。
「住まいの一角に、書斎やワークスペース、アトリエなどをつくりたいというご相談は多いですね。広々としたリビングダイニングを求めつつ、ひとりでこもれる"隠れ家"のようなスペースも住まいに必要な要素のようです」(山田さん)
社会の変化に沿うように、住まい手の暮らしはこれまでにないような方向に多様化していきます。実現したいライフスタイルは人それぞれ、10人いれば、10通りの暮らしの想いがあります。
その想いをかなえる空間をTOTO、DAIKEN、YKK APがご提案している「十人十家(じゅうにんといえ)」でも、リノベーションやリフォームという手段を通して、新たな暮らしが実現できます。ぜひこちらもヒントにしてください。
※この記事内容は、2019年12月25日時点での情報です。ご了承ください。
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