外の騒音、家族の話し声や足音、水まわりから聞こえる音...。
住まいの音は目には見えないだけに、なかなか解決が難しいのが実情です。
どうすれば、気になる音を防ぎつつ、周りを気にせずに趣味や団らんを楽しめるのでしょうか。
DAIKENサウンドセンターの音響のプロに、効果的な音対策を聞きました。
プロフィール
DAIKEN音響製品部
サウンドセンター センター長
井上 直人(いのうえ なおと)
https://www.daiken.jp/sr/akihabara/
「住宅の進化+コロナ禍」で
気になりだした室内の音
音の問題は、暮らし方や家のつくりによって大きく左右されます。最近は、ライフスタイルの変化により多くの人の在宅時間が増えたことで、音に関する相談も増加。これまであまり気にされなかった「住宅内の音」がクローズアップされています。
コロナ禍で増えた「小さな部屋の防音リフォーム」
「住宅の防音に対する相談が以前より増えています。特に、3畳以下の小さな部屋の防音リフォーム需要が高まっている状況です」。コロナ禍以降の動向について、DAIKENサウンドセンターのセンター長、井上 直人さんはそう話します。防音に対する相談窓口となっているサウンドセンターでは、毎月300件以上の防音提案をしてきました。最近は、その件数が月350〜400件に増えているといいます。
背景にあるのは、在宅ワークや巣ごもり需要によって、家で過ごす時間が長くなったこと。その結果、音の問題が気になるようになったのです。なかでも、住宅内で発生する音が気になるケースが増えています。「オンライン会議、リモートの飲み会、YouTubeの撮影、ゲームなど、室内で大きな声や音を出す機会が多くなりました。これらの音が漏れる、あるいは室内で響きすぎてオンライン会議の音声が聞き取りにくいといった相談が増えています。また、以前は『日中ならこの程度は良いのでは』と思っていたような大きさの音も、今は気になるようになっています」と井上さんは指摘します。
高断熱・高気密化も新しい音問題を生み出した
より長い目で振り返ると、住宅自体のつくりの変化も、音環境に新しい問題を生み出してきました。ここ数十年では、ターニングポイントとなった出来事が2つあります。
1つは、主たる床材がカーペットからフローリングへ移り変わったこと。それぞれに床材としての良さがあるものの、音の伝えにくさという点ではカーペットがフローリングより優れています。そのため何の対策もしないままフローリングを採用した場合に、上階の足音が下階で響くといった事例が多発しました。上の階をフローリングにする場合には、相応の防音対策が欠かせません。
もう1つは、住宅の高気密・高断熱化です。室内で心地良く健康に過ごせるようにするための高気密・高断熱化が進んでいます。この高気密・高断熱化は建物の遮音性能も高めます。高い遮音性能は家の中に静けさをもたらしますが、静かになった分、住宅内で発生した音が聞こえやすくなり気になります。同時に、室内の反響も大きくなるという副作用も生じました。「室内がわんわん響く環境で過ごしているとストレスが溜まる、という研究もあります。室内に吸音材を入れるなどして、音の面でも心地良い住環境を整えていくことが大切です」と井上さんは注意を促します。
音環境の改善は
「遮音」「防振」「吸音」のセットで
気になる音を防ぎ、心地良い音の環境を整えるにはどうしたら良いのでしょうか。一口に音対策といっても、音の種類によって方法は様々です。まずは、音が伝わる仕組みからご説明します。
空気音はモノを置いて止め、個体音は振動を断つ
音の伝わり方は大きく2種類あります。
1つめは、外の騒音や室内の話し声などの「空気を伝わる音」がこれに当たります。こうした空気音を止めるには、音の発生源との間に壁のようなモノを置きます。これが「遮音」です。
家の場合、外壁や屋根が内外の音を遮る役割を果たします。コンクリートのように重いモノほど音を止める効果は高く、軽いモノでも間をおいて2つ並べると遮音効果は高まります。
2つめは「モノの振動によって伝わる個体音」。例えば、歩く音や家具を引きずる音が下階で聞こえるのがこれで、止めるには「防振」という方法を使います。「音を伝えるモノ同士を切り離す、弾力性を備えたゴムなどをモノとモノの間にはさむという方法で振動を遮断します。あるいは、カーペットを敷くなどして、発生源付近でそもそもの振動を抑えるのも効果的です」(井上さん)
ただし、音を止めただけでは室内の音環境は心地良くなりません。ここで求められるのが、「吸音」という方法です。適度に音を吸収することで、反響しすぎず、聞き取りやすい音環境が実現します。こうした音の響きの調整は、高品質なオーディオルームなどでは特に重要になってきます。
騒音対策で見逃しがちな「穴」の存在
家の音問題を解決する方法について、もう少し具体的に見ていきましょう。
外の騒音を防ぐための大前提となるのが、外壁や屋根による遮音です。高気密・高断熱化の進んだ現代の住宅は遮音性も高まりました。でも、その割に音が気になる場合があるのは、換気システムの給気口などの「穴」を通して音が筒抜けになっているからです。「外部の騒音がどこから入ってくるのかを調べると、大きい順に『換気扇』『窓』『床や天井』『外壁』となります。外壁はもともとの遮音性能が高いので、リフォームで手を付けてもそれ以上の改善はなかなか見込めません。実は、遮音対策で重要なのは、換気システムの給気口といった遮音性能の低い部分の性能を、他の部分と同等になるように高めることです。例えば自然給気用にサイレンサーを設置すれば、わずかな費用で大きな遮音効果を得られます」(井上さん)
住戸内は振動対策も重要に
室内で発生する音に目を向けると、しばしば気になるのが振動音です。2階を歩いたり、床に物を置いたりする音は1階でも意外なほど響きます。
こうしたケースのリフォームでは「壁や床がつながっていると振動も伝わる」という点に気を付ける必要があります。例えば、2階の床は1階の壁とつながっているので、2階の床で発生した音は1階の壁にも伝わります。そのため1階側で防音対策するなら、天井の工事だけでは不十分で、周囲4面の壁も併せて工事する必要があります。一方、2階側で対処するなら、音の発生源である床だけ防音化すれば良いので効率的です。
井上さんは、次のような2世帯住宅の事例も挙げます。「2階の子世帯のキッチンでまな板を使うときの"トントン"という音が1階で気になる、という相談を受けたことがあります。2階の床に遮音マットを敷いても効果がないとのことで、調べてみると、2階の調理台が壁に接していたため、まな板の音が壁を通して1階に伝わったのです。そこで、まな板の下に薄いゴムシートを敷いてもらったところ解決しました」。振動音のみならず、音の問題は原因の見極めが非常に大切です。
悩みを解決、音にまつわる要望をかなえた
リフォーム事例
周りに気兼ねせず子どもを遊ばせたい、外の騒音が入り込まない在宅ワークの場がほしい、究極の音を楽しみたい。そんな要望に応じたリフォームの例をいくつか見ていきましょう。
「子どもの遊ぶ声や音が
屋外や階下に漏れないようにしたい」
子どもには元気良く過ごしてもらいたいけれども、楽しくはしゃぐ声やパタパタと走る足音が外に漏れないか気になってしまう。そんなお悩みに応えるリフォームです。ペットと一緒に過ごすご家庭にも参考になるでしょう。
ここで重視するのは、外部と内部の間の遮音です。なかでも、窓を対策することで効果的に遮音性能を高めています。
「まず、窓のリフォームを検討するといいでしょう。今では壁を壊さずに、1日で最新の高性能窓に取り替えられるようになりました。また、窓の交換はせずに、今ある窓に内窓を取り付けて二重窓にするだけでも遮音性が格段に向上します」と井上さんは指摘します。
もう1つは先に紹介した、換気システムの給気口の対策です。給気口にサイレンサーを取り付けると、穴からの音漏れを小さく抑えることができます。さらに性能を高めるなら防音フードを併用する方法もあります。キッチンの換気扇からの音の出入りに配慮したレンジ用防音フードもあります。
なお、子どもの遊び場となる部屋が2階や3階にある家の場合は、階下に響く音の対策も欠かせません。床面にゴムマットを敷くなどして、下階への音の伝達を防ぎます。
「近隣の騒音をシャットアウトして
静かに在宅ワークしたい」
コロナ禍で伸びているのが、在宅ワークに対応したリフォームの需要です。二重窓や防音換気扇などの採用で外からの騒音をシャットアウトすることはもちろん、オンライン会議を行う場合には音が聞き取りやすい環境に整えることも大切になります。
音を聞き取りやすい空間づくりに欠かせないのが、効果的な吸音。吸音性を備えた素材を天井・壁・床に取り入れます。フローリングの上に、置き畳を敷いてみるのも手軽で効果的な手法の1つです。「弊社の『ダイケン畳』は高い吸音性も備えています」(井上さん)
打ち合わせの声などが漏れないように、家の中で完全に独立した在宅ワークスペースを設けたい場合には、ワークスペースの全周に防音対策を施します。オンライン会議をするなら吸音材を多めに取り入れると良いでしょう。
「リビングシアターやオーディオルームをつくって、
近隣を気にせず音を楽しみたい」
自分好みの音を再現できるオーディオルームへ。おうち時間の楽しみ方を極めたリフォームの実例です。遮音や防振を施した壁・床・天井で部屋を厳重にくるんだうえ、さらに吸音・調音によって室内環境をチューニングしていきます。
四角い箱形空間は音の反響が大きく、優れた音響は望めません。そこで壁や天井の断面に凹凸を設けて音を拡散・吸収し、適度な音の響きを実現するのがオーディオルームづくりの基本となります。ここでは、細かな凹凸を備えた天井材に加え、ワンタッチで着脱できる吸音壁を随所に取り付けました。
住み手は吸音壁の向きや配置を変えたりしながら、聴く音楽やシーンに合わせて好きな音の響きを楽しんでいます。
近年は「住宅性能」という言葉が一般化し、住宅会社や工務店が提供する住宅の断熱性、耐震性、耐久性などは大きく向上してきました。ところが、これらに比べて音の性能はあまり進化していません。
「住まい手にとって気になるのがどのような音なのか、住まい手は家にどの程度の音の質を求めているのか。こうした目標を共有することが、良い音環境づくりの第一歩です。そのためにも、単に機材を提供するのではなく、一人ひとりに適切なコンサルティングをしていくのが私たち音の専門家の役割。ぜひ、お気軽にご相談ください」と井上さんは結びました。
TDYのコラボレーションショールームでは、DAIKENの内装建材、YKK APの窓・玄関ドアなど、音の対策に役立つ商品をご覧いただけます。
またTOTO、DAIKEN、YKK APがご提案している「十人十家(じゅうにんといえ)」でも、それらの商品を取り入れたさまざまなテーマのリフォーム空間をご覧いただけますので、ぜひご活用ください。
音対策に注目の
リフォーム商品のご紹介
解決策が見えにくい住まいにかかわる音の問題も、実は対応な商品が用意されています。ぜひチェック!
-
DAIKEN エアスマート 自然給気口11型・
自然給気用サイレンサー24時間換気システム、エアスマートの自然給気口(左)と、屋外からの騒音の侵入を軽減する、専用の自然給気用サイレンサー(右)です。
-
DAIKEN 音響用インテリア壁材
オトピタ壁に取り付けるだけで、自分にぴったりの音響空間をつくり出します。後付けタイプのため、取り付けや配置替えが簡単に行えます。
-
DAIKEN 音響調整部材
サウンドトロン部屋の四隅や壁際に設置することで室内の反響音を低減できる、音響調整部材です。防音室内の壁面に吸音材料の設置が不要となるため、壁面デザインの自由度が広がります。
-
YKK AP マドリモ
樹脂窓壁工事不要のカバー工法で、窓をスピード交換。暑さ寒さの原因となっていた古い窓を、新築にも使われている最新の窓に替えて、より快適で健康、ローエネな暮らしにすることができます。
※この記事内容は、2022年8月31日時点での情報です。ご了承ください。
関連記事
-
ペットのお悩み解消!人とペットが快適に暮らす家づくりの工夫
-
「毎日を健やかに過ごす」「家事・子育てをサポートする」リモデルプランをご紹介 ~ TDY3社によるライフスタイル提案「十人十家」がリニューアル ~ 前編
-
【十人十家「地域・自然を身近に感じる」をテーマにインタビュー】植栽を活かしたエクステリアのアイデアをご紹介。わが家の庭をもっと楽しもう!
-
片付けをラクにする収納のコツ。リフォーム前に実践して新居をスッキリ!
-
時代を先取り! 健康的な暮らしの実現、地域や自然とつながる工夫 ~ 「TDYリモデルコレクションブック」に注目!~ 後編
-
水まわりのカラーは「白」「ライトグレー」が根強い人気! 柄や素材で個性をプラス
-
住宅の主役、リビングダイニングには思い切って「好きな色」をアクセントに。色のバランスはプロの手を借りよう