冬になると、入浴中に「ヒートショック」で亡くなる高齢者が後を絶ちません。
寒い時期のバスタイムは本来、心身を温め1日の疲れを癒してくれる、かけがえのない時間です。
安心で快適な浴室はどんな点に留意してつくればいいのか、住まいの良好な温熱環境を研究している、
一般財団法人ベターリビング サステナブル居住研究センターの皆さんにうかがいました。
冬に心配な
「ヒートショック」とは?
近年、「ヒートショック」という言葉が報道でもよく話題になっています。人間の体は、気温が急に下がると体温を奪われないように血管を収縮させ、血圧が急上昇します。逆に気温が高くなると今度は血管が広がり、血圧が低下します。
ヒートショックとは、この血圧の急な変化などによる体調の異変のことを言います。
ヒートショックによる入浴中急死は
年間1万9,000人との推計も
家の中で、とくに注意が必要なのが浴室です。厚生労働省研究班が行った調査(2012年10月~2013年3月)からは、1年間に全国で約1万9,000人もの方々が、ヒートショックに関連した「入浴中急死」で、亡くなっていると推計されました。これは年間の交通事故による死亡者数の約5倍以上にものぼりますが、一般的にはあまり知られていません。
平均気温の低い1月、2月、12月にはとくに入浴中の死亡者数が多くなります。寒い冬場の浴室は、ヒートショックが発生しやすくなります。
上のグラフのように、入浴中の死亡者数が多いのは気温の低い1月、2月、12月。冬の外気温に近い寒い洗面脱衣室・浴室から熱いお風呂に入るため、体調の異変を招くと考えられます。
高齢になるほどそうした温度変化に弱く、前出の「入浴中急死」の80%以上が65歳以上です。また下のグラフのように、55歳以上の人に聞いたアンケートでは9%の人が、浴室や洗面脱衣室で体調不良を経験しています。
皆さんもお風呂でのぼせたり、ふらついたりしてヒヤッとした経験はありませんか? 実は毎日のようにヒートショックの危険と隣り合わせになっているのかもしれません。
55歳以上の人に聞いたアンケートでは9%が「体調不良でヒヤリとしたことがある」と回答。その多くは、浴槽から立ち上がったときか浴槽内で起きています。
家の寒さが入浴時の
ヒートショックなど事故の原因に
ヒートショックの要因には昔ながらの住宅のつくりや習慣が影響しています。
温度の急な変化に
何度もさらされる入浴
「入浴事故は、家の寒さそのものが問題だと考えています。日本の昔ながらの木造住宅では、夏の通気を重視したために、隙間風も多く、そもそも断熱という発想がありませんでした」(一般財団法人ベターリビング サステナブル居住センター)。断熱・気密性能が十分でないと、冬場は家じゅうが寒くなるため、居室だけ閉め切って暖房したり、こたつにあたるなど直接的に身体を温める、といった対処をしてきました。
そうした昔ながらの既存住宅では、南側はリビングなどの居室に、浴室や洗面脱衣室、トイレなどはたいてい寒い北側に配置されています。さらに、浴室や洗面脱衣室、トイレなどの水まわりは、湿気やカビ対策のため、通風を重視して複数の窓を設けています。そのため、冬でも窓を開放し換気する人が多く、冷気、寒風が入り込み、外気温近くまで室温が低下します。
そんな状況の住まいで、お風呂に入るとしたらどうでしょう。暖房の効いたリビングから寒い廊下に出て、洗面脱衣室所で衣服を脱いだ後、浴室に入り熱いお風呂につかる...。この一連の流れの中で、私たちの身体は何度も温度の変化にさらされ血圧が変動します。
また寒い家で暮らしている人は熱いお湯に、暖かい家の人はぬるめのお湯に入る傾向が見られるという調査報告があります。熱いお湯の風呂に長くつかると、体温が上がり熱中症を引き起こす可能性があるため、お風呂で起きる事故の原因のひとつと考えられています。
このときの検証では寒い洗面脱衣室で服を脱いでから、さらに寒い浴室で体を洗っているうちに血圧が上がり、そのあと、浴槽に入ることで一気に血圧が急降下。
お風呂から出るとまた寒さで血圧が上昇します。
※グラフは、浴室の温度が10度、17.5度、25度の時の体調の変化を表したもの
家中に点在する
見えない温度のバリア
日本のストック住宅の約5,000万戸のうち、断熱材などを使っていない無断熱が35%に上ります。1980年からこれまで、国は屋根、床、壁、窓・ドアの断熱性などを含め住宅の断熱基準を段階的に引き上げてきました。しかし、とくに基準を高めた平成28年基準(2016年)を満たしている住宅はわずか8%しかありません(右のグラフ参照)。日本人の多くは、見えない温度のバリアがあちこちにある家で生活しているのです。
日本のストック住宅は約5,000万戸。2015年の調査では無断熱が35%を占めました。H28(平成28年)省エネ基準の断熱基準を満たす住宅は8%。※H28は断熱基準が同等のH11及びH25省エネ基準の住宅を含む
健康に暮らすための
温熱環境にするには
ヒートショックの恐れがない、身体に負担のかからない家とはどんなものでしょうか。「大切なのは、家の中を暖かくすること、そして、各部屋や廊下などの温度差を極力小さくすることです」(同センター)
身体に負担のかからない
家とは?
下のリストは、暖かく健康的な家をつくるためのポイントです。家全体を暖かくするならまず、屋根・天井、外壁、窓、玄関ドア、床・基礎など、建物の外周にぐるりと隙間なく断熱材を巡らせて、断熱性と気密性を高めることが重要です。
- プランニング
- 各部屋や廊下、窓などの配置やそれぞれのつながりを工夫する。外気や暖房していない部屋からの冷気を遮り、暖房している部屋からの暖気を流入させる
- 断熱
- 屋根・天井、外壁、床・基礎に各地の気候などに合った断熱工事をし、室温を安定させるとともに壁面との温度差を抑える
- 窓・玄関ドア
- 断熱性の高い窓、玄関ドアを採用する
- 浴室
- システム(ユニット)バスを採用し、浴室の床や壁から伝わる冷気を抑える
- 脱衣室(洗面所)
- 床面には、足元に冷気を感じにくい材料などを使う
- トイレ
- 暖房便座つきの洋式便器にし、座ったときの冷えを防ぐ
- 暖房設備
- リビングなどの居室のほか、洗面所(脱衣室)や浴室、トイレなどの水まわりに暖房設備を設置して、その場を利用している間は適温を保つようにする
- 出典:「住宅における良好な温熱環境実現研究委員会 研究報告概要」(2018)
家の中をムラのない均一な室温に
間取りの対策としては、例えば水まわり空間を北側ではなく住宅の中央部分に配置したり、浴室やトイレを寝室に隣接させ、廊下を通らずに移動できるようにするなどの工夫も有効です。さらに、熱が出入りしやすい窓や玄関ドアを高断熱タイプに替えれば、室内の熱は外に逃げにくく、また外の冷気や熱気が影響しにくい建物になります。冬はもちろん、夏も快適な室温を保ちやすくなります。
そのほか、居室以外の寒さが気になる箇所には、ピンポイントで暖房器具を取り入れます。入浴などの前には、衣服を脱ぎ裸になる洗面脱衣室や浴室などはあらかじめ暖めておき、十分に温度が上がってから入るとよいでしょう。
システム(ユニット)バスや窓のリフォームで
快適で健康的な家に
ストック住宅も、リフォームで居心地のよい、快適な温熱環境の家に変えることができます。たとえば、内装のリニューアルの際、加えて床や壁、天井に断熱材を入れるようにすれば、効率よく断熱改修できます。「リビングなど、家族が過ごす時間の長い部屋から始めて、次は浴室やトイレまわりというように、段階的に住まい全体を断熱改修していく手もありますね」(同センター)
予算に応じた温熱環境リフォーム
予算を抑えたい場合には、窓や玄関ドアの断熱タイプへの交換を優先して、リフォームの計画を。既存の窓の内側にもうひとつ窓を設置する「内窓」は近年、普及が進みました。そのほか、既存の窓枠、ドア枠をそのまま利用して高断熱タイプの窓・ドアを外側から取り付ける「カバー工法」は、壁を壊さずに施工できるので施工期間が短くなります。
断熱性向上リフォームのポイントは窓、玄関ドア、床、壁、浴室の見直し。高断熱窓への交換、床や壁に断熱材を入れ冷気の侵入を防ぐ、断熱・気密にすぐれたシステム(ユニット)バスに交換する、といった方法があります。
1年中、安心して
過ごせる我が家へ
寒く、床の冷たい在来工法の浴室はシステム(ユニット)バスに交換し、浴室暖房機を設置することをおすすめします。改修の際は以前の浴室を解体するため、浴室などの水まわりの壁や床などに断熱を施すチャンスです。システム(ユニット)バスに加えて、既存の窓に内窓をつけて二重窓にしたり、窓ごと高断熱タイプに交換してもよいでしょう。
このようにリフォームで見えない温度のバリアをなくすことができると、高齢者だけでなく、家族全員にとっても快適な住まいになります。我が家の隅々まで楽しく安心して過ごせるよう、リフォームに取り組んでみませんか。
温熱環境を配慮した
システム(ユニット)バスの
リフォーム例
畳のように柔らかい断熱クッション層と高強度断熱材を使った断熱床パンのW断熱構造で床からの冷気を抑える、TOTOのシステムバス「シンラ」。暖房換気扇は標準搭載です。
窓のカバー工法のリフォーム例
YKK APの「マドリモ 断熱窓」なら既存の窓のメーカーは問わず、壁を壊さずに1つの窓あたり約2時間~半日で施工完了。新築同様の快適空間に生まれ変わります。
※施工時間は納まりや、窓種の条件により多少変動
※画像はマドリモ 樹脂窓
リフォーム前とリフォーム後の
暖房開始後の温度変化
断熱・気密改修及びシステム(ユニット)バスにリフォームした後は、リフォーム前の在来工法の浴室に比べて、室温だけでなく、壁面や足元を含めて浴室全体が暖かくなっているのがわかります。
安心バスルームの
商品・機能ラインナップ
ヒートショックから家族を守る浴室リフォームにおすすめの商品です。
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TOTOシステムバスルーム
シンラ断熱構造で湯温を保つ浴槽、柔らかく冬場もヒヤッとしない床、温かい肩楽湯や腰楽湯。安心で快適なバスルームです。
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TOTOお掃除ラクラク
ほっカラリ床床の内側のクッション層が畳の柔らかさを実現。冬場でも床が冷たくなりにくく、親水パワーの効果でブラシでのお掃除がラクラクです。
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TOTO浴室・洗面所
あたたか快適セット標準仕様の暖房換気扇とともにオプションで洗面所暖房機を選べば、スイッチひとつで浴室と洗面所を同時に暖房できます。
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YKK APマドリモ
断熱窓今ある窓枠に新しい窓を取り付けるカバー工法で、窓をスピード交換。寒さの原因となっていた古い窓が最新の窓に替わり、断熱性がアップします。
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YKK APマドリモ
内窓 プラマードU今ある窓に内窓を取付けて二重窓に。1窓あたり約60分の簡単施工で窓の断熱性が高まり、住みやすさがぐんとアップします。
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