2018年度も例年同様、多数の応募をいただき、誠にありがとうございました。去る11月19日・20日の2日間にわたって厳正に審査を行い、全国最優秀賞作品、TDY総合リモデル賞、および各部門の上位入賞作品を決定いたしました。審査員の講評とともに発表いたします。
美しい写真がアイキャッチに
今回のコンテストでは、作品の質がさらにレベルアップしていることが感じられました。「特に写真の美しさが印象的でした。より良い実例シートづくりを目指し、全国各地の店会で勉強会も活発になっているので、参加された皆さんがその成果を発揮されたのではないでしょうか。ただ、若干エリアによる差が感じられるので、今まで以上に積極的にご応募いただきたいですね」と審査員の西岡麻里子先生。竜口隆三先生も「審査で実例シートを見ていて、まず目が行くのは写真です。アイキャッチとして印象に残るものですから、空間のとらえ方やお施主様の暮らし方が伝わってくるカットなど、撮影の工夫はもちろん、シートへの写真の配置の工夫によって見栄えも違ってくるので、一層力を入れていただきたいですね」と話されます。
シートのプレゼンテーション力を高めるには、説明文や図面の描き方もポイントとなります。「説明文はリモデルの内容を簡潔に箇条書きでまとめたほうが読みやすくなります。図面も簡潔にわかりやすく表現し、家具の配置、方位、写真撮影位置の番号もきちんと入れること。リモデルの全容がわかりにくい図面も散見されますので、ていねいに仕上げていただきたいと思います」とお二人。
プランニングにおいては、素材や色使いのセンスの高さ、建具などを再利用して家の歴史を残すアイデア、スムーズな家事動線の工夫など、どの作品も高いレベルに達しているように感じられます。また、建築費を抑えたり、老後の資金計画まで考えて光熱費なども節約できる減築リモデルなど、ローコストを心がけた作品も増加。特に減築を決断するには、暮らし方に寄り添った配慮ある提案が必要となるため、お施主様へのしっかりとしたプレゼンテーション力や、コミュニケーション力の高さが感じられました。
全体的に見ると、うまくまとまった作品が多く、ハイレベルな競争となっていることは喜ばしいことですが、味わいのある突出した作品、個性的な作品がやや少ないことは残念でした。独創的なアイデアや遊び心あるデザインなど、もう一段上のリモデルを目指してほしいところです。
その点で非常に目を引いたのが今回の全国最優秀賞作品。細長い敷地に2世帯住宅の機能を見事に配置した秀作です。明るさと動線を確保するために長い廊下を造って窓を設けたり、廊下に面したセカンドリビングは必要に応じて引戸を開け閉めできるようにしたり、よく工夫されています。「シートのまとめ方も秀逸。写真の美しさ、図面や説明文のわかりやすさなど、読む人の立場に立って作成され、まさにお手本のようなシート。総合力で群を抜いています」と、お二人は絶賛されていました。
高齢者に対する配慮の充実を
例年感じられていた、部門別の応募作品のレベルのバラつきはやや解消され、今回は特に『バス・洗面所』が充実していました。一方、『自由空間』『パブリックトイレ(レストルーム)』の2部門は層が薄い印象。「『自由空間』は趣味の部屋や茶室、地域の人が集まる集会室など、興味深い作品が増えていくことを期待します」と西岡先生。
今後の課題は高齢者に対する配慮をより充実させること。“人生100 年時代”を迎えるこれからは、ユニバーサルデザインは必要不可欠で、認知症などへの配慮も求められます。「高齢者を支えるためのアイデアや工夫を積極的に考えていただきたいですね」と竜口先生。これからも質の高いリモデル提案とシートづくりに邁進してください。
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西岡 麻里子 先生 一級建築士。アトリエ楽 一級建築士事務所主宰。埼玉県生まれ。日本女子大学住居学科卒。どこの家もふだんは散らかっているし、家族の会話は不足がち。だからこそ楽しい暮らしができる家づくりを日々模索している。著書に、吉田桂二氏らとの共著「暮らしから描くキッチンと収納の作り方」(彰国社)、女性建築技術者の会名義での「家づくりのバイブル」(三省堂)など。
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竜口 隆三 先生 西日本工業大研究センター客員教授・博士(人間環境デザイン学)。東陶機器㈱(現TOTO㈱)にて長年水まわり設備機器・福祉機器を中心としたバリアフリー化の研究・開発業務に従事し、2002年同社内に設立されたUD(ユニバーサルデザイン)研究所の初代所長に就任。現在は西日本工業大学で教鞭を執るほか、国際標準化「ISO」の日本代表委員等も務めている。