第19回バリアフリーリフォームの
ポイントは?
さりげない配慮で
家族みんなが快適に
(写真/すべて阿部建設株式会社)
※新築とリフォームの事例が含まれています
年齢を重ねるにつれ、身体機能は低下していくもの。
また、長い人生の中では病気やケガなどに見舞われて思うように動けなくなることもありえます。
そんな変化に対応して暮らしやすい住まいに変えるのがバリアフリーリフォームです。
今回は、ご自身も車いすユーザーであり、バリアフリーリフォームの実績が豊富な
阿部建設株式会社の代表取締役社長、阿部 一雄さんにお話をうかがいました。
プロフィール
阿部建設株式会社 代表取締役社長
阿部 一雄さん1964年、愛知県生まれ。大学卒業後、自動車会社勤務を経て、家業である阿部建設に入社。2002年、趣味であるオートバイレース中の事故により、車いす生活を始める。2005年、阿部建設創業100周年の年に5代目代表取締役社長に就任。
バリアフリーリフォームの
配慮すべきポイントは?
阿部さんが事故で車いすの生活になったのは、38歳のとき。それまで健康で仕事にも家庭にも恵まれていた阿部さんですが、健常者と障がい者、双方の生活を経験したことから、その視点をバリアフリーの新築、リフォームのプランニングに反映しています。
阿部さんが考えるバリアフリーリフォームのコンセプトは「介助・介護を受ける方にとっても、介助・介護をするご家族にとっても、居心地のよい家であってほしい」ということ。
「家への思いやライフスタイル、体の状態も人それぞれです。どうしたら介助・介護を受ける方もご家族も快適に暮らせるか、またこの先に身体の状況が変わったらどうするか、を考えることが大切です」と阿部さん。
阿部建設では、身体に障がいのある方のほか、以下のような状態の高齢の方などについてもバリアフリーリフォームの対象としてとらえています。
- 足が不自由になり、歩きづらさを覚え始めた
- 1人で歩けるが、杖あるいは手すりがないと不安定
- 車いすで自走・移乗は可能
バリアフリーリフォームで玄関、
トイレ、洗面所・浴室を改善
こうした住まい手の暮らす家では、どこがバリアフリーリフォームのポイントになるのでしょうか。「特に手を入れるべきなのは、玄関、トイレ、洗面所・浴室です」と阿部さん。いずれも生活者の複数の行動や動作が伴い、日々の生活で必ず利用する箇所です。それぞれのバリアフリー化では例として次のようなことを提案しているそうです。
①玄関のバリアフリー化
- ■地面から玄関までの段差の解消
- →車いすでも家の出入りができるようになる
- ■玄関ドアを引戸に変更
- →身体を大きく移動せずに開閉できる
- ■玄関の鍵を電子錠にする
- →鍵を差し込んで回すという動作が不要になる
- ■家族全員の靴が入る収納を用意する
- →床にモノがなく、つまづきにくくなる
- ■コート掛けをつくる
- →外で付着したほこりや花粉、ウイルスを室内に持ち込まない
- ■靴を脱ぎ履きするための腰掛けや手すりを設置
- →介助なしに外出の用意がしやすくなる
- ■玄関近くに手洗い器を設置
- →外出からの帰宅時に手を洗って清潔に
②トイレのバリアフリー化
- ■トイレ空間の長手方向に出入り口を設ける、隣室のクローゼット部分をトイレに組み込んで空間を広げる
- →便器周りにスペースができて介助しやすくなる
- ■トイレ内での動きに合わせ身体を支えやすい位置に手すりを付ける
- →安全に立ち座りができる
- ■床材には長尺塩ビシートなど継ぎ目がなく清掃しやすいものを選ぶ。車いすの使用にも耐える耐久性が高い製品を採用
- →汚れをふき取りやすく、臭いが発生しにくい
- ■「前方ボード」(TOTO)、背もたれ付きの手すりなども設置
- →用便時に体を安定させたり、腹部に力を入れられる
https://jp.toto.com/products/ud/entrance/
- ■照明は人感センサー付きを採用
- →手を伸ばす、スイッチを押すといった操作の負担を省略できる
- ■可能であれば介助・介護を受ける本人用と家族用のトイレを別々につくる
- →互いに気兼ねなく、思い思いのタイミングや所要時間で利用できる
- ■寝室とトイレを近づける
- →就寝前後もトイレに行きやすい
③洗面・浴室のバリアフリー化
- ■断熱改修に加え、浴室暖房機などを設置
- →裸になっても寒くないようにする。急激な気温の変化によるヒートショックを防ぐ
- ■段差のないシステムバスを採用する。在来工法の浴室の場合、洗い場にスノコを造作して段差を解消する
- →転倒防止
- ■浴槽にたどりつくまでの手すり、浴槽に腰かけてからお湯に入るための台やバスボードを用意する
- →足が不自由でもひとりで入浴しやすくなる
- ■動作のじゃまにならない位置に水栓、シャワーを配置
- ■寝室から洗面・浴室はできるだけ真っすぐで短い動線にする
- →車いすでも移動しやすい
身体の状態は千差万別。
自分にベストの
プランにするには?
阿部さんがバリアフリー住宅を設計する上で重視しているのが、ADL(日常生活動作)とQOL(生活の質)を高めること。ADLは、介助なしに日常生活をどれだけできるかという指標です。阿部さんは「できる限りご自身が持つ力を生かして暮らせるよう設計します」と言います。身体がどのように動くか、動かしにくいかは人ごとに異なります。ですからバリアフリーリフォームも、その家ごとにオーダーメイドに。「一般的にはバリアとなる床の段差も、すべての家から取り除くわけではありません」と阿部さんは言います。今ある力を衰えさせないために、あえてバリアを残して身体機能を駆使するようにしつらえることもあるそうです。
一方、QOLは、幸福感や生きがいを見出している尺度のこと。車いすでも出やすい開放的なデッキを設けて風や光を感じながら気分転換できるようにしたり、家族の時間を共有できるようなスペースをつくるなど、毎日の暮らしを楽しむ提案をしているそうです。
専門家の知見を活かすバリアフリーリフォーム
住まい手のそれぞれの状態に適したプランニングに必要なのが医師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ケアマネージャー、介護ヘルパー、介護機器提供者などの専門家の意見を聞くこと。「専門家のみなさんは健康状態については詳しいけれども、どうリフォームしたらいいかという建築面については私たちのほうが専門家です。当社では"バリアフリーコーディネーター"と呼ぶ担当者が、お住まいになるご本人とそのご家族の思いをヒアリングしたうえで、医療や行政の担当者の話を聞いてプランをご提案しています。
住まい手の声に耳を傾け、専門家の知見を生かしてプランニングするには、相応の見識と経験が必要。「依頼するのであれば、ぜひバリアフリーリフォームの実績のある工務店を探してください。幸い、インターネットで検索すればお住まいの地域の周辺にいくつかは見つかるはず。複数の会社と面談してみて、人柄や相性も含め、自分たちが信頼できる依頼先を選ぶとよいと思います」(阿部さん)。
誰もが我慢せずに
快適に暮らせる
バリアフリーリフォームに
するには?
バリアフリーリフォームの打ち合わせの際、阿部さんはなるべく家族全員が集まった場で話をするようにしています。「家のなかには、介助・介護を受ける方と、介助・介護をする方がいます。受ける方は、本来持たなくてもよい自己否定感や申し訳なさを感じ、一方、介助する方は緊張感から解放されないという状況が起こりがちです。お互いを気遣うあまり、かえって心苦しくなってしまう。そんなジレンマをなくすのが、心のバリアフリーと考えます」と阿部さん。そのためにも打ち合わせの場では自分たちが思っていることを何でも話してもらい、意思の疎通を図ります。
そして、そんな打ち合わせの中から、阿部さんは家族の日々の生活を思い描き、介助する人、される人、それぞれにとって快適に過ごせる住空間を提案。「プランニングにあたっては、今だけでなく、10年先、20年先についても想定しておくことが大事。その間にそれぞれの身体の状況も変わっていきますから」。こうした長期的な視野を持つことで、本当に必要な設備、不要な部屋などの優先順位も定めていくことができます。
家族が尊重し合える生活動線設計
阿部さんが提案する心のバリアを外す方法のひとつが、複数の生活動線をつくること。家族の生活動線とは別に、要介助者のための生活動線をつくります。これによってお互いの生活ペースを尊重し、余計なストレスを軽減。家族が気兼ねせず心地よく過ごせるようになります。
「車いすでも使えるようなキッチンにすれば、健康な人でも座って調理できるようになります。バリアフリー仕様は特別なことではなく、むしろそちらに合わせたほうが、家族みんなにとって快適になる場合もあります。そんな発想の転換を心掛けると、リフォームをより楽しむことができるかもしれませんよ」。
また、予算配分も重要なポイントの一つ。リフォーム後しばらくして、本人や家族の状況の変化に応じて、追加や変更の工事をすることもありえます。そのための予算もある程度は確保しておくと、“とりあえずここ数年のみ考えて一旦この造作にしておく”など、柔軟に対応することも可能に。「そこまで見越して提案してくれる設計者、工務店に依頼できるといいですね」と阿部さん。
日本では高齢化が進み、在宅での介助・介護が増える傾向にあります。今後、住まいにおけるバリアフリー化の必要性もさらに高まっていくことが予想されます。TDYのコラボレーションショールームでは、TOTOの水まわり、DAIKENの内装建材、YKK APの窓・玄関ドアなど、3社におけるバリアフリーに対応した商品をご覧いただけます。ぜひご活用ください。
バリアフリーに配慮した
商品のご紹介
住まいのバリアフリーを実現するおすすめの商品・コンテンツです。
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DAIKEN ひいて、ひらく。新発想から生まれた大開口ドア ひきドア
通常は引戸で出入りでき、開き戸を開けば車イスも出入りできる大開口を実現。生活に必要なさまざまな空間を理想的な動線で繋ぎます。
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DAIKEN 高齢者のすべりに配慮した床材
おもいやりフロアⅣ高齢者や介護を行っているご家庭におすすめの、滑りに配慮した床材です。車イスの走行傷や、水や汚れにも強いのでお手入れが簡単です。
-
DAIKEN 手摺部材
手がかり手摺高齢者の方や、手摺をにぎる力の弱い方に、肘や体を預けながらラクに移動できる、歩行補助用の手摺です。抗ウイルス機能付きもお選びいただけます。
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YKK AP APW 431
大開口スライディング軽い力で開けられゆっくり閉まるスライディング窓。開閉に必要な力はこれまでの10分の1。 車いすでも安全・快適に開けられ、出入りできます。
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YKK AP れん樹
大開口引戸2枚の障子を引き込むので開口幅にゆとりがあります。下枠の段差も少なく、車いすやベビーカーも通りやすい設計です。
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YKK AP 断熱スライディングドア
コンコード S30お子様から高齢者の方まで、安全に快適に開閉できる玄関引戸。デザインバリエーションを豊富に取りそろえ、 省スペース化を実現します。
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YKK AP ドアリモ
浴室ドア有効開口幅800mm以上の設定のある引戸タイプなら、介護が必要な方でも介護者と一緒に出入りができます。
-
TOTO TOTOのユニバーサルデザイン
つくるって、人を思うこと。さまざまな人の使いやすさを追求する活動から、「ライフステージに応じた住まい」をご提案いたします。
※この記事内容は、2021年1月27日時点での情報です。ご了承ください。
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